俘囚 海野十三 Guide 扉 本文 目 次 俘囚 「ねエ、すこし外へ出てみない!」 「うん。──」  あたしたちは、すこし飲みすぎたようだ。ステップが踉々と崩れて、ちっとも鮮かに極らない。松永の肩に首を載せている──というよりも、彼の逞しい頸に両手を廻して、シッカリ抱きついているのだった。火のように熱い自分の息が、彼の真赤な耳朶にぶつかっては、逆にあたしの頬を叩く。  ヒヤリとした空気が、襟首のあたりに触れた。気がついてみると、もう屋上に出ていた。あたりは真暗。──唯、足の下がキラキラ光っている。水が打ってあるらしい。 「さあ、ベンチだよ。お掛け……」  彼は、ぐにゃりとしているあたしの身体を、ベンチの背中に凭せかけた。ああ、冷い木の床。いい気持だ。あたしは頭をガクンとうしろに垂れた。なにやら足りないものが感ぜられる。あたしは口をパクパクと開けてみせた。 「なんだネ」と彼が云った。変な角度からその声が聞えた。 「逃げちゃいやーよ。……タバコ!」 「あ、タバコかい」  親切な彼は、火の点いた新しいやつを、あたしの唇の間に挟んでくれた。吸っては、吸う。美味しい。ほんとに、美味しい。 「おい、大丈夫かい」松永はいつの間にか、あたしの傍にピッタリと身体をつけていた。 「大丈夫よオ。これッくらい……」 「もう十一時に間もないよ。今夜は早く帰った方がいいんだがなア、奥さん」 「よしてよ!」あたしは呶鳴りつけてやった。「莫迦にしているわ、奥さんなんて」 「いくら冷血の博士だって、こう毎晩続けて奥さんが遅くっちゃ、きっと感づくよ」 「もう感づいているわよオ、感づいちゃ悪い?」 「勿論、よかないよ。しかし僕は懼れるとは云やしない」 「へん、どうだか。──懼れていますって声よ」 「とにかく、博士を怒らせることはよくないと思うよ。事を荒立てちゃ損だ。平和工作を十分にして置いて、その下で吾々は楽しい時間を送りたいんだ。今夜あたり早く帰って、博士の首玉に君のその白い腕を捲きつけるといいんだがナ」  彼の云っている言葉の中には、確かにあたしの夫への恐怖が窺われる。青年松永は子供だ。そして偶像崇拝家だ。あたしの夫が、博士であり、そして十何年もこの方、研究室に閉じ籠って研究ばかりしているところに一方ならぬ圧力を感じているのだ。博士がなんだい。あたしから見れば、夫なんて紙人形に等しいお馬鹿さんだ。お馬鹿さんでなければ、あんなに昼となく夜となく、研究室で屍体ばかりをいじって暮せるものではない。その癖、この三四年こっち、夫は私の肉体に指一本触った事がないのだ。  あたしは、前から持っていた心配を、此処にまた苦く思い出さねばならなかった。 (この調子で行くと、この青年は屹度、私から離れてゆこうとするに違いない!)  きっと離れてゆくだろう。ああ、それこそ大変だ。そうなっては、あたしは生きてゆく力を失ってしまうだろう。松永無くして、私の生活がなんの一日だってあるものか。──こうなっては、最後の切り札を投げるより外に途がない。おお、その最後の切り札! 「ねえ。──」とあたしは彼の身体をひっぱった。「ちょいと耳をお貸しよ」 「?」 「あたしがこれから云うことを聴いて、大きな声を出しちゃいやアよ」  彼は怪訝な顔をして、あたしの方に耳をさしだした。 「いいこと!──」グッと声を落として、彼の耳の穴に吹きこんだ。「あんたのために、あたし、今夜うちの人を殺してしまうわよ!」 「えッ?」  これを聴いた松永は、あたしの腕の中に、ピーンと四肢を強直させた。なんて意気地なしなんだろう、二十七にもなっている癖に……。  邸内は、底知れぬ闇の中に沈んでいた。 (お誂え向きだわ!)今宵は夜もすがら月が無い。  トントンと、長い廊下の上に、あたしの跫音がイヤに高く響く。薄ぐらい廊下灯が、蜘蛛の巣だらけの天井に、ポッツリ点いている。その角を直角に右に曲る。──プーンと、きつい薬剤の匂いが流れて来た。夫の実験室は、もうすぐ其所だ。  夫の部屋の前に立って、あたしは、コツコツと扉を叩いた。──返事はない。  無くても構わない。ハンドルをぎゅっと廻すと、扉は苦もなく開いた。夫は、あたしの訪問することなどを、全然予期していないのだ。だから扉々には、鍵もなにも掛っていない。あたしは、アルコール漬の標本壜の並ぶ棚の間をすりぬけて、ズンズン奥へ入っていった。  一番奥の解剖室の中で、ガチャリと金属の器具が触れ合う物音がした。ああ、解剖室! それは、あたしの一番苦手の部屋であったけれど……。  扉を開けてみると、一段と低くなった解剖室の土間に、果して夫の姿を見出した。  解剖台の上に、半身を前屈みにして、屍体をいじりまわしていた夫は、ハッと面をあげた。白い手術帽と、大きいマスクの間から、ギョロとした眼だけが見える。困惑の目の色がだんだんと憤怒の光を帯びてきた。だが、今夜はそんなことで駭くようなあたしじゃない。 「裏庭で、変な呻り声がしますのよ。そしてなんだかチカチカ光り物が見えますわ。気味が悪くて、寝られませんの。ちょっと見て下さらない」 「う、うーッ」と夫は獣のように呻った。「くッ、下らないことを云うな。そんなことア無い」 「いえ本当でございますよ。あれは屹度、あの空井戸からでございますわ。あなたがお悪いんですわ。由緒ある井戸をあんな風にお使いになったりして……」  空井戸というのは、奥庭にある。古い由緒も、非常識な夫の手にかかっては、解剖のあとの屑骨などを抛げこんで置く地中の屑箱にしか過ぎなかった。底はウンと深かったので、ちょっとやそっと屑を抛げこんでも、一向に底が浮き上ってこなかった。 「だッ黙れ。……明日になったら、見てやる」 「明日では困ります。只今、ちょっとお探りなすって下さいませんか。さもないと、あたくしはこれから警察に参り、あの井戸まで出張して頂くようにお願いいたしますわ」 「待ちなさい」と夫の声が慄えた。「見てやらないとは云わない。……さあ、案内しろ」  夫は腹立たしげに、メスを解剖台の上へ抛りだした。屍体の上には、さも大事そうに、防水布をスポリと被せて、始めて台の傍を離れた。  夫は棚から太い懐中電灯を取って、スタスタと出ていった。あたしは十歩ほど離れて、後に随った。夫の手術着の肩のあたりは、醜く角張って、なんとも云えないうそ寒い後姿だった。歩むたびに、ヒョコンヒョコンと、なにかに引懸かるような足つきが、まるで人造人間の歩いているところと変らない。  あたしは夫の醜躯を、背後からドンと突き飛ばしたい衝動にさえ駆られた。そのときの異様な感じは、それから後、しばしばあたしの胸に蘇ってきて、そのたびに気持が悪くなった。だが何故それが気持を悪くさせるのかについて、そのときはまだハッキリ知らなかったのである。後になって、その謎が一瞬間に解けたとき、あたしは言語に絶する驚愕と悲嘆とに暮れなければならなかった。訳はおいおい判ってくるだろうから、此処には云わない。  森閑とした裏庭に下りると、夫は懐中電灯をパッと点じた。その光りが、庭石や生えのびた草叢を白く照して、まるで風景写真の陰画を透かしてみたときのようだった。あたしたちは無言のまま、雑草を掻き分けて進んだ。 「何にも居ないじゃないか」と夫は低く呟いた。 「居ないことはございませんわ。あの井戸の辺でございますよ」 「居ないものは居ない。お前の臆病から起った錯覚だ! どこに光っている。どこに呻っている。……」 「呀ッ! あなた、変でございますよ」 「ナニ?」 「ごらん遊ばせ。井戸の蓋が……」 「井戸の蓋? おお、井戸の蓋が開いている。どッどうしたんだろう」  井戸の蓋というのは、重い鉄蓋だった。直径が一メートル強もあって、非常に重かった。そしてその上には、楕円形の穴が明いていた。十五糎に二十糎だから、円に近い。  夫は秘密の井戸の方へ、ソロリソロリと歩みよった。判らぬように、ソッと内部を覗いてみるつもりだろう。腰が半分以上も、浮きたった。夫の注意力は、すっかり穴の中に注がれている。すぐ後にいるあたしにも気がつかない。機会! 「ええいッ!」  ドーンと夫の腰をついた。不意を喰らって、 「なッ何をする、魚子!」  と、夫は始めてあたしの害心に気がついた。しかし、そういう叫び声の終るか終らないうちに、彼の姿は地上から消えた。深い空井戸の中に転落していったのだ。懐中電灯だけが彼の手を離れ、もんどり打って草叢に顎をぶっつけた。 (やっつけた!)と、あたしは俄かに頭がハッキリするのを覚えた。(だが、それで安心出来るだろうか) 「とうとう、やったネ」  別な声が、背後から近づいた。松永の声だと判っていたが、ギクンとした。 「ちょっと手を貸してよ」  あたしは、拾ってきた懐中電灯で、足許に転がっている沢庵石の倍ほどもある大きな石を照した。 「どうするのさ」 「こっちへ転がして……」とゴロリと動かして、「ああ、もういいわよ」──あとは独りでやった。 「ウーンと、しょ!」 「奥さん、それはお止しなさい」と彼は慌てて停めたけれど、 「ウーンと、しょ!」  大きな石は、ゴロゴロ転がりだした。そして勢い凄じく、井戸の中に落ちていった。夫への最後の贈物だ。──ちょっと間を置いて、何とも名状できないような叫喚が、地の底から響いてきた。  松永は、あたしの傍にガタガタ慄えていた。 「さア、もう一度ウインチを使って、蓋をして頂戴よオ」  ギチギチとウインチの鎖が軋んで、井戸の上には、元のように、重い鉄蓋が載せられた。 「ちょっとその孔から、下を覗いて見てくれない」  鉄蓋の上には楕円形の覗き穴が明いていた。縦が二十センチ横が十五センチほどの穴である。 「飛んでもない……」  松永は駭いて尻込みをした。  夜の闇が、このまま何時までも、続いているとよかった。この柔い褥の上に、彼と二人だけの世界が、世間の眼から永遠に置き忘られているとよかった。しかし用捨なく、白い暁がカーテンを通して入ってきた。 「じゃ、ちょっと行って来るからネ」  松永は、実直な銀行員だった。永遠の幸福を思えば、彼を素直に勤め先へ離してやるより外はない。 「じゃ、いってらっしゃい。夕方には、早く帰ってくるのよ」  彼は膨れぼったい眼を気にしながら出ていった。  使用人の居ないこの広い邸宅は、まるで化物屋敷のように、静まりかえっていた。一週に一度は、派出婦がやって来て、食料品を補ったり、洗い物を受けとったりして行くのが例だった。いつまで寝ていようと、もう気儘一杯にできる身の上になった。呼びつけては、気短かに用事を怒鳴りつける夫も居なくなった。だからいつまでもベッドの上に睡っていればよかったのであるが、どういうものか落付いて寝ていられなかった。  あたしは、ちぐはぐな気持で、とうとうベッドから起き出でた。着物を着かえて鏡に向った。蒼白い顔、血走った眼、カサカサに乾いた唇── (お前は、夫殺しをした!)  あたしは、云わでもの言葉を、鏡の中の顔に投げつけた。おお、殺人者! あたしは取返しのつかない事をしてしまったのだ。窓の向うに見える井戸の中に、夫の肉体は崩れてゆくだろう。彼にはもう二度と、この土の上に立ち上る力は無くなってしまったのだ。鉛筆の芯が折れたように、彼の生活はプツリと切断してしまったのだ。彼の研究も、かれの家族も(あたし独りがその家族だった)それから彼の財産も、すべて夫の手を離れてしまった。彼は今日まで、すっかり無駄働きをしたようなものだ。そんなことをさせたのは、一体誰の罪だ。殺したのは、あたしだ。しかし殺させるように導いたのは夫自身だったじゃないか。他の男のところへ嫁いでいれば、人殺しなどをせずに済んだにちがいない。あたしの不運が人殺しをさせたのだ。といって人殺しをしたのは此の手である。この鏡に写っている女である。もう拭っても拭い切れない。あたしの肉体には、夫殺しの文字が大きな痣になっているのに違いない。誰がそれを見付けないでいるものか。じわりじわりと司直の手が、あたしの膚に迫ってくるのが感じられる。 (ああ、こんな厭な気持になるのだったら、夫を殺すのではなかった!)  押しよせてくる不安に、あたしはもう堪えられなくなった。なにか救いの手を伸べてくれるものは無いか。 「そうだ、有る有る。お金だ。夫の残していった金だ。それを探そう!」  いつか夫が、莫大な紙幣の札を数えているところへ、入っていったことがあった。あれは五年ほど前のことだったが、研究に使ったとしても、まだ相当残っている筈。それを見つけて、あとはしたいことを今夜からでもするのだ。  あたしは、それから夕方までを、故き夫の隠匿している財産探しに費した。茶の間から始まって、寝室から、書斎の本箱、机の抽斗それから洋服箪笥の中まで、すっかり調べてみた。その結果は、云うまでもなく大失敗だった。あれほど有ると思った金が、五十円と纏っていなかった。この上は、夫の解剖室に入って屍体の腹腔までを調べてみなければならなかったが、あの部屋だけは全く手を出す勇気がない。しかしそれほどまでにせずとも、これ以上探しても無駄であることが判った。それは数冊の貯金帖を発見したことだったが、その帖面の現在高は、云いあわせたように、いずれも一円以下の小額だった。結局わが夫の懐工合は、非常に悪いことが判った。意外ではあるが、事実だから仕方がない。  失望のあまり、今度はボーッとした。この上は、化物屋敷と広い土地とを手離すより外に途がない。松永が来たらば、適当のときに、それを相談しようと思った。彼はもう間もなく訪れて来るに違いない。あたしはまた鏡に向って、髪かたちを整えた。  だが、調子の悪いときには、悪いことが無制限に続くものである。というのは、松永はいつまで待っても訪ねてこなかった。もう三十分、もう一時間と待っているうちに、とうとう何時の間にやら、十二時の時計が鳴りひびいた。そして日附が一つ新しくなった。 (やっぱり、そうだ!──松永はあたしのところから、永遠に遁げてしまったのだ!)  彼のために、思い切ってやった仕事が、あの子供っぽい青年の胸に、恐怖を植えつけたのに違いない。人殺しの押かけ女房の許から逃げだしたのだ。もう会えないかも知れない、あの可愛い男に……。  悶えに満ちた夜は、やがて明け放たれた。憎らしいほどの上天気だった。だが、内に閉じ籠っているあたしの気持は、腹立たしくなるばかりだった。幾回となく発作が起って、あたしは獣のように叫びながら、灰色に汚れた壁に、われとわが身体をうちつけた。あまりの孤独、消しきれない罪悪、迫りくる恐怖戦慄、──その苦悶のために気が変になりそうだ、恐ろしかった。あの重い鉄蓋が持ち上がるものだったら、あたしは殺した夫の跡を追って、井戸の中に飛びこんだかも知れない。  喚き、悶え、暴れているうちに、とうとう身体の方が疲れ切って、あたしはベッドの上に身を投げだした。睡ったことは睡ったが、恐ろしい夢を、幾度となく次から次へと見た。──不図、その白昼夢から、パッタリ目醒めた。オヤオヤ睡ったようだと、気がついたとき、庭の方の硝子窓が、コツコツと叩かれるので、其の方へ顔を向けた。 「ああ、──」あたしは、思わず大声をあげると、その場に飛んで起きた。なぜなら、庭に向いた窓の向うから、しきりに此方を覗きこんでいる者があった。その円い顔──紛れもなく、逃げたとばかり思っていた松永の笑顔だった。 「マーさん、お這入り──」 「どうして昨夜は来なかったのさア」  嬉しくもあったけれど、相当口惜しくもあったので、あたしはそのことを先ず訊ねた。 「昨夜は心配させたネ。でもどうしても来られなかったのだ、エライことが起ってネ」 「エライことッて、若い女のひとと飯事をすることなの」 「そッそんな呑気なことじゃないよ。僕は昨夜、警視庁に留められていたんだ。そして、いまから三十分ほど前に、釈放になったばかりだよ」 「ああ、警視庁なの!」  あたしはハッと思った。そんなに早く露見したのかなア。 「そうだ、災難に類する事件なんだがネ」と彼は急に興奮の色を浮べて云った。「実はうちの銀行の金庫室から、真夜中に沢山の現金を奪って逃げた奴があるんだ。そいつが判らない。その部屋にいる青山金之進という番人が殺されちまった。──そして不思議なことに、その部屋に入るべきあらゆる入口が、完全に閉じられているのだ。穴といえば、その室にある送風機の入口と、壁の欄間にある空気窓だけだ。空気窓の方は、嵌めこんだ鉄の棒がなかなかとれないから大丈夫。もう一つの送風機の穴は、蓋があって、これが外せないことはないが、なにしろ二十センチそこそこの円形で、外は同じ位の大きさの鉄管で続いている。二十センチほどの直径のことだから、どんなに油汗を流してみても、身体が通りゃしない。それだのに犯人の入った証拠は、歴然としているのだ。こんな奇妙なことがあるだろうか」 「現金は沢山盗まれたの?」 「うん、三万円ばかりさ。──こんな可笑しなことはないというので、記事は禁止で、われわれ行員が全部疑われていたんだ。僕もお蔭で禁足を喰ったばかりか、とうとう一泊させられてしまった。ひどい目に遭ったよ」  松永は、ポケットの中から、一本の煙草を出して、うまそうに吸った。 「変な事件ネ」 「全く変だ。探偵でなくとも、あの現場の光景は考えさせられるよ。入口のない部屋で、白昼のうちに巨額の金が盗まれたり、人が殺されたりしている」 「その番人は、どんな風に殺されているんでしょ」 「胸から腹へかけて、長く続いた細いメスの跡がある、それが変な風に灼けている。一見古疵のようだが、古疵ではない」 「まア、──どうしたんでしょうネ」 「ところが解剖の結果、もっとエライことが判ったんだよ。駭くべきことは、その奇妙な古疵よりも、むしろその疵の下にあった。というわけは、腹を裂いてみると、駭くじゃあないか、あの番人の肺臓もなければ、心臓も胃袋も腸も無い。臓器という臓器が、すっかり紛失していたのだ。そんな意外なことが又とあるだろうか」 「まア、──」とあたしは云ったものの、変な感じがした。あたしはそこで当然思い出すべきものを思い出して、ゾッとしたのだ。 「しかし、その奇妙な臓器紛失が、検束されていた僕たち社員を救ってくれることになった、僕たちが手を下したものでないことが、その奇妙な犯罪から、逆に証明されたのだ」 「というと……」 「つまり、人間の這入るべき入口の無い金庫室に忍びこんだ奴が、三万円を奪った揚句、番人の臓器まで盗んで行ったに違いないということになったのさ。無論、どっちを先にやったのかは知らないが……」 「思い切った結論じゃないの。そんなこと、有り得るかしら」 「なんとかいう名探偵が、その結論を出したのだ。捜査課の連中も、それを取った。尤も結論が出たって、事件は急には解けまいと思うけれどネ。ああ併し、恐ろしいことをやる人間が有るものだ」 「もう止しましょう、そんな話は……。あんたがあたしのところへ帰って来てくれれば、外に云うことはないわ。……縁起直しに、いま古い葡萄酒でも持ってくるわ」  あたしたちは、それから口あたりのいい洋酒の盃を重ねていった。お酒の力が、一切の暗い気持を追払ってくれた。全く有難いと思った。──そしてまだ宵のうちだったけれど、あたしたちはカーテンを下ろして、寝ることにした。  その夜は、すっかり熟睡した。松永が帰って来た安心と、連日の疲労とが、お酒の力で和かに溶け合い、あたしを泥のように熟睡させたのだった。……  ──翌朝、気のついたときは、もうすっかり明け放たれていた。よく睡ったものだ。あたしは全身的に、元気を恢復した。 「オヤ、──」  隣に並んで寝ていたと思った松永の姿が、ベッドの上にも、それから室内にも見えない。  庭でも散歩しているのじゃないかと思って、暫く待っていたけれど、一向彼の跫音はしなかった。 「もう出掛けたのかしら……」今日は休むといっていたのに、と思いながら卓子の上を見ると、そこに見慣れない四角い封筒が載っているのを発見した。あたしはハッと胸を衝かれたように感じた。  しかし手をのばして、その置き手紙を開くまでは、それほどまで大きい驚愕が隠されているとは気がつかなかった。ああ、あの置き手紙! それは松永の筆蹟に違いなかったけれど、その走り書きのペンの跡は地震計の針のように震え、やっと次のような文面を判読することが出来たほどだった。 「愛する魚子よ、──  僕は神に見捨てられてしまった。かけがえのない大きな幸福を、棒に振ってしまわなければならなくなった。魚子よ、僕はもう再び君の前に、姿を現わすことが出来なくなった。ああ、その訳は……?  魚子よ、君は用心しなければいけない。あの銀行の金庫を襲った不思議の犯人は、世にも恐ろしい奴だ。彼奴の真の目標は、ひょっとすると、此の僕にあったのではないかと考える。僕は……僕は今や真実を書き残して、愛する君に伝える。──僕は夜のうちに、あの隆々たる鼻と、キリリと引締っていた唇と(自分のものを褒めることを嗤わないで呉れ、これが本当に褒め納めなのだから)──僕はその鼻と唇とを失ってしまった。夜中に不図眼が醒めて、なんとなく変な気持なので、起き出したところ、僕は君の化粧台の鏡の中に、世にも醜い男の姿を発見したのだ! これ以上は、書くことを許して呉れ。  そして最後に一言祈る。君の身体の上に、僕の遭ったような危害の加えざらんことを。 松永哲夫」  この手紙を読み終って、あたしは悲歎に暮れた。なんという非道いことをする悪漢だろう。銀行の金を盗み、番人を殺した上に、松永の美しい顔面を惨たらしく破壊して逃げるとは!  一体、そんなことをする悪漢は、何奴だろうか。手紙の中には、犯人は松永を目標とする者だと思うと、書いてあった。松永は何をしたというのだ? 「ああ、やっぱりあれだろうか? そうかも知れない。……イヤイヤ、そんなことは無い。夫はもう、死んでいるのだ。そんなことが出来よう筈がない」  そのときあたしは、不図床の上に、異様な物体を発見した。ベッドから滑り下りて、その傍へよって、よくよく見た。それは茶褐色の灰の固まりだった。灰の固まり──それは確かに見覚えのあるものだった。夫がいつも愛用した独逸製の半練り煙草の吸い殻に違いなかった。  そんな吸い殻が、昨日も一昨日も掃除をしたこの部屋に、残っているというのが可笑しかった。誰か、昨夜のうちに、ここへ入って来て、煙草を吸い、その吸い殻を床の上に落としていったと考えるより外に途がなかった。そして松永が、そんな種類の煙草を吸わぬことは、きわめて明かなことだった。 「すると、若しや死んだ筈の夫が……」  あたしは急に目の前が暗くなったのを感じた。ああ、そんな恐ろしいことがあるだろうか。井戸の中へ突き墜とし、大きな石塊を頭の上へ落としてやったのに……。  そのとき、入口の扉についている真鍮製のハンドルが、独りでクルクルと廻りだした。ガチャリと鍵の音がした。 (誰だろう?)もうあたしは、立っているに堪えられなかった。──扉は、静かに開く。だんだん開いて、やがて其の向うから、人の姿が現れた。それは紛れもなく夫の姿だった。たしかに此の手で殺した筈の、あの夫の姿だった。幽霊だろうか、それとも本物だろうか。  あたしの喉から、自然に叫び声が飛び出した。──夫の姿は、無言の儘、静かにこっちへ進んでくる。よく見ると、右手には愛蔵の古ぼけたパイプを持ち、左手には手術器械の入った大きな鞄をぶら下げて……。あたしは、極度の恐怖に襲われた。ああ彼は、一体何をしようというのだろう?  夫は卓子の上へドサリと鞄を置いた。ピーンと錠をあけると、鞄が崩れて、ピカピカする手術器械が現れた。 「なッなにをするのです?」 「……」  夫はよく光る大きなメスを取り上げた。そしてジリジリと、あたしの身体に迫ってくるのだった。メスの尖端が、鼻の先に伸びてきた。 「アレーッ。誰か来て下さアい!」 「イッヒッヒッヒッ」  と、夫は始めて声を出した。気持がよくてたまらないという笑いだった。 「呀ッ。──」  白いものが、夫の手から飛んで来て、あたしの鼻孔を塞いだ。──きつい香りだ。と、その儘、あたしは気が遠くなった。  その次、気がついてみると、あたしはベッドのある居間とは違って、真暗な場所に、なんだか蓆のような上に寝かされていた。背中が痛い。裸に引き剥かれているらしい。起きあがろうと思って、身体を動かしかけて、身体の変な調子にハッとした。 「あッ、腕が利かない!」  どうしたのかと思ってよく見ると、これは利かないのも道理、あたしの左右の腕は、肩の下からブッツリ切断されていた。腕なし女! 「ふッふッふッふッ」片隅から、厭な忍び笑いが聞えてきた。 「どうだ、身体の具合は?」  あッ、夫の声だ。ああ、それで解った。さっき気が遠くなってから、この両腕が夫の手で切断されてしまったのだ。憎んでも憎み足りない其の復讐心! 「起きたらしいが、一つ立たせてやろうか」夫はそういうなり、あたしの腋の下に、冷い両手を入れた。持ち上げられたが、腰から下がイヤに軽い。フワリと立つことが出来たが、それは胴だけの高さだった。大腿部から下が切断されている! 「な、なんという惨らしいことをする悪魔! どこもかも、切っちまって……」 「切っちまっても、痛味は感じないようにしてあげてあるよ」 「痛みが無くても、腕も脚も切ってしまったのネ。ひどいひと! 悪魔! 畜生!」 「切ったところもあるが、殖えているところもあるぜ。ひッひッひッ」  殖えたところ? 夫の不思議な言葉に、あたしはまた身慄いをした。あたしをどうするつもりだろう。 「いま見せてやる。ホラ、この鏡で、お前の顔をよく見ろ!」  パッと懐中電灯が、顔の正面から、照りつけた。そしてその前に差し出された鏡の中。──あたしは、その中に、見るべからざるものを見てしまった。 「イヤ、イヤ、イヤ、よして下さい。鏡を向うへやって……」 「ふッふッふッ。気に入ったと見えるネ。顔の真中に殖えたもう一つの鼻は、そりゃあの男のだよ。それから、鎧戸のようになった二重の唇は、それもあの男のだよ。みんなお前の好きなものばかりだ。お礼を云ってもらいたいものだナ、ひッひッひッ」 「どうして殺さないんです。殺された方がましだ。……サア殺して!」 「待て待て。そうムザムザ殺すわけにはゆかないよ。さア、もっと横に寝ているのだ。いま流動食を飲ませてやるぞ。これからは、三度三度、おれが手をとって食事をさせてやる」 「誰が飲むもんですか」 「飲まなきゃ、滋養浣腸をしよう。注射でもいいが」 「ひと思いに殺して下さい」 「どうして、どうして。おれはこれから、お前を教育しなければならないのだ。さア、横になったところで、一つの楽しみを教えてやろう。そこに一つの穴が明いている。それから下を覗いてみるがいい」  覗き穴──と聞いて、あたしは頭で、それを急いで探した。ああ、有った、有った。腕時計ほどの穴だ。身体を芋虫のようにくねらせて、その穴に眼をつけた。下には卓子などが見える。夫の研究室なのだ。 「なにか見えるかい」  云われてあたしは小さい穴を、いろいろな角度から覗いてみた。  あった、あった。夫の見ろというものが。椅子の一つに縛りつけられている化物のような顔を持った男の姿! 着ているものを一見して、それと判る人の姿──ああ、なんと変わり果てた松永青年! あたしの胸にはムラムラと反抗心が湧きあがった。 「あたしは、あなたの計画を遂げさせません。もうこの穴から、下を覗きませんよ。下を見ないでいれば、あなたの計画は半分以上、効果を失ってしまいます」 「はッはッはッ、莫迦な女よ」と、夫は、暗がりの中で笑った。「おれの計画しているものはそんなことじゃない。見ようと見まいと、そのうちにハッキリ、お前はそれを感じることだろう!」 「では、あたしに何を感じさせようというのです」 「それは、妻というものの道だ、妻というものの運命だ! よく考えて置けッ」  夫はそういうと、コトンコトンと跫音をさせながら、この天井裏を出ていった。  それから天井裏の、奇妙な生活が始まった。あたしは、メリケン粉袋のような身体を同じところに横えたまま、ただ夫がするのを待つより外なかった。三度三度の食事は、約束どおり夫が持って来て、口の中に入れてくれた。あたしは、両手のないのを幸福と思うようになった。手がないばかりに、鼻が二つあり、おまけに唇が四枚もある醜怪な自分の顔を触らずに済んだ。  用を達すのにも困ると思ったが、それは医学にたけた夫が極めて始末のよいものを考えて呉れたようだった。その代り、或る日、注射針を咽喉のあたりに刺し透されたと思ったら、それっきり大きな声が出なくなった。前とは似ても似つかぬ皺がれた声が、ほんの申し訳に、喉の奥から出るというに過ぎなかった。なにをされても、俘囚の身には反抗すべき手段がなかった。  鼻と唇とを殺がれた松永は、それから後どうなったか、気のついたときには、例の天井の穴からは見えなくなった。見えるのは、相変らず気味の悪い屍体や、バラバラの手足や、壜漬けになった臓器の中に埋もれて、なにかしらせっせとメスを動かしている夫の仕事振りだった。その仕事振りを、毎日朝から夜まで、あたしは天井裏から、眺めて暮した。 「なんて、熱心な研究家だろう!」  不図、そんなことを思ってみて、後で慌てて取り消した。そろそろ夫の術中に入りかけたと気が付いたからである。「妻の道、妻の運命」──と夫は云ったが、なにをあたしに知らしめようというのだろう。  しかし遂に、そのことがハッキリあたしに判る日がやって来た。  それから十日も経った或る日、もう暁の微光が、窓からさしこんで来ようという夜明け頃だった。警官を交えた一隊の検察係員が、風の如く、真下の部屋に忍びこんで来た。あたしは、刑事たちが、盛んに家探しをしているのを認めた。解剖室からすこし離れたところに、麻雀卓をすこし高くしたようなものがあって、その上に寒餅を漬けるのに良さそうな壺が載せてあった。 「こんなものがある!」 「なんだろう。……オッ、明かないぞ」  捜査隊員はその壺を見つけて、グルリと取巻いた。床の上に下ろして、開けようとするが、見掛けによらず、蓋がきつく閉まっていて、なかなか開かない。 「そんな壺なんか、後廻しにし給え」と部長らしいのが云った。刑事たちは、その言葉を聞いて、また四方に散った。壺は床の上に抛り出されたままだった。 「どうも見つからん。これア犯人は逃げたのですぜ」  彼等はたしかにあたしたち夫婦を探しているものらしい。あたしは何とかして、此処にいることを知らせたかったが、重い鎖につながれた俘囚は天井裏の鼠ほどの音も出すことが出来なかった。そのうちに一行は見る見るうちに室を出ていって、あとはヒッソリ閑として機会は逃げてしまったのだ。  それにしても、夫は何処に行ったのだろう。 「オヤ、なんだろう?」あたしはそのとき、下の部屋に、なにか物の蠢く気配を感じた。  と、いきなりカタカタと、揺れだしたものがあった。 「あッ。壺だ!」  卓子の上から、床の上に下ろされた壺が、まるで中に生きものが入っているかのように、さも焦れったそうに揺れている。何か、入っているのだろうか。入っているとすると、猫か、小犬か、それとも椰子蟹ででもあろうか。いよいよこの家は、化物屋敷になったと思い、カタカタ揺り動く壺を、楽しく眺め暮した。なにしろ、それは近頃にない珍らしい活動玩具だったから。その日も暮れて、また次の日になった。壺は少し勢を減じたと思われたが、それでも昨日と同じ様に、ときどきカタカタと滑稽な身振で揺らいだ。  夫はもう帰って来そうなものと思われるのに、どうしたものか、なかなか姿を見せなかった。あたしはお腹が空いて、たまらなくなった。もう自分の身体のことも気にならなくなった。ただ一杯のスープに、あたしの焦燥が集った。  四日目、五日目。あたしはもう頭をあげる力もない。壺はもう全く動かない。そうして遂に七日目が来た。時間のことは判らないが、不図下の部屋がカタカタする音に気がついて例の覗き穴から見下ろすと、この前に来たように一隊の警官隊が集っていた。その中でこの前に見かけなかったような一人のキビキビした背広の男が一同の前になにか云っていた。 「……博士は、絶対に、この部屋から出ていません。私はこの前に一緒に来ればよかったと思います。多分もう手遅れになったような気がします。あの××銀行の、入口の厳重に閉った金庫室へ忍びこんだのもたしかに博士だったのです。そういうと変に思われるでしょうが、実は博士は僅か十五センチの直径の送風パイプの中から、あの部屋に侵入したのです」 「それア理窟に合わないよ、帆村君」と部長らしいのが横合から叫んだ。「あの大きな博士の身体が、あんな細いパイプの中に入るなどと考えるのは、滑稽すぎて言葉がない」 「ではいまその滑稽をお取消し願うために、博士の身体を皆さんの前にお目にかけましょう」 「ナニ博士の在所が判っているのか。一体どこに居るのだ」 「この中ですよ」  帆村は腰を曲げて、足許の壺を指した。警官たちは、あまりの馬鹿馬鹿しさに、ドッと声をあげて笑った。  帆村は別に怒りもせず、壺に手をかけて、逆にしたり、蓋をいじったりしていたが、やがて、恭々しく壺に一礼をすると、手にしていた大きいハンマーで、ポカリと壺の胴中を叩き割った。中からは黄色い枕のようなものがゴロリと転り出た。 「これが我が国外科の最高権威、室戸博士の餓死屍体です!」  あまりのことに、人々は思わず顔を背けた。なんという人体だ。顔は一方から殺いだようになり、肩には僅かに骨の一部が隆起し、胸は左半分だけ、腹は臍の上あたりで切れている。手も足も全く見えない。人形の壊れたのにも、こんなにまで無惨な姿をしたものは無いだろう。 「みなさん。これは博士の論文にある人間の最小整理形体です。つまり二つある肺は一つにし、胃袋は取り去って腸に接ぐという風に、極度の肉体整理を行ったものです。こうすれば、頭脳は普通の人間の二十倍もの働きをすることになるそうで、博士はその研究を自らの肉体に試みられたのです」  人々は唖然として、帆村の話に聞き入った。 「この壺は博士のベッドだったんです。その整理形体に最も適したベッドだったんです。ところで、こんな身体で、どうして博士は往来を闊歩されたか。いまその手足をごらんに入れましょう」  帆村は立って、壺の載っていた卓子の上に行った。そして台の中央部をしきりに探していたが、やがて指をもって上からグッと押した。するとギーッという物音がすると思うと、卓子の中からニョキリと二本の腕と二本の脚が飛び出した。それは空間に、博士の両腕と両脚とを形づくってみせた。 「ごらんなさい。あの壺の蓋が明いて、博士の身体がバネ仕掛けで、この辺の高さまで飛び出して来たとすると、電磁石の働きで、この人造手足がピタリと嵌るのです。しかしこの動作は、博士が壺の底に明いている穴から、卓子の上の隠し釦を押さねばなりません。押さなければ、この壺の蓋も明きません。博士が餓死をされたのは、睡っているうちにこの壺が卓子の上から下ろされた結果です」  一座は苦しそうに揺いだ。 「しかし博士は、何かの原因で精神が錯乱せられた。そしてあの兇行を演じたのです。小さいパイプの中を抜けることは、その手足を一時バラバラに外し、一旦向う側へ抜けた上、また元のように組立てれば、苦もなく出来ることです。それを考えないと、あの金庫の部屋に忍びこんだことが信ぜられない。これで私の説が滑稽でないことがお判りでしょう」  やがて帆村は一同を促して退場をすすめた。 「あの夫人はどうしたろう?」  と部長が、あたしのことを思い出した。 「魚子夫人はアルプスの山中に締め殺してあると博士の日記に出ています。さあ、これからアルプスへ急ぐのです」  人々はゾロゾロと室を出ていった。 「待って!」  あたしは力一杯に叫んだ。しかしその声は彼等の耳に達しなかった。ああ、馬鹿、馬鹿! 帆村探偵のお馬鹿さん! ここにあたしが繋がれているのが判らないのかい。夫は、あの井戸の蓋の穴から逃げ出したのだ。呪いの大石塊は、彼に命中しなかったのだ。ああ今は、あたしには餓死だけが待っている。お馬鹿さんが引返して来る頃には、あたしはもう此の世のものじゃ無い。夫が死ねば、妻もまた自然に死ぬ! 夫の放言が今死に臨んで、始めて合点がいった。夫はいつか、こんなことの起るのを予期していたのか知れない。あたしもここで、潔く死を祝福しましょう! 底本:「海野十三全集第2巻・俘囚」三一書房    1991(平成3)年2月28日第1版第1刷発行 初出:「新青年」    1934(昭和9)年2月号 入力:田浦亜矢子 校正:もりみつじゅんじ 2000年1月10日公開 2011年2月24日修正 青空文庫作成ファイル:このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。