短歌 宮本百合子 Guide 扉 本文 目 次 短歌  少し、読みためたのを、人に見てもらう。  母は、万葉調のが上手で、十一の時から詠んで居たから、流石に巧い。  私のとは、まるで気持が違う。  自分でよんで、自分でうっとりする様な歌は、どうしても、まだ未熟な私には、出て来て呉れない、それが口惜しい。  どうにでもうまく一つやらねばならないと思うと、じいっと座って居られない様な気持になって来る。  雑誌をよんだり、短歌集を引き出して見たりしても、どうしても、ハーッと思う様なのが見つからない。  情ない様な気がする。  腹が立った様な気持になって、さっきまで、何となし気が軽くて、母に甘ったれたり、笑ったりして居たのに、もうすっかり気が重くなって、只、短歌の事ばっかり考えて居る。  何も彼も、そう熱中しないでもよさそうではあるけれ共、どうせ、少し真似事位出来るなら達者になりたいと思う。こんな事にでも私の人にまけたくない気持が現れる。 底本:「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社    1981(昭和56)年12月25日初版    1986(昭和61)年3月20日第5刷 初出:「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社    1981(昭和56)年12月25日初版 入力:柴田卓治 校正:土屋隆 2009年1月29日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。