ある日 中野鈴子 Guide 扉 本文 目 次 ある日 ある日 市電ののりかえで待っていると 一人の女の人がやってきた 洋服も帽子も見たこともないような古い型で 汚れて穴もあいている 断髪の毛は赤ちゃけ 木綿靴下の足がすりこぎのように弾力がない 電車がきて 彼女はわたしの前に向かい合った 健康でない むしろやつれた細面のかお けれども 目は 生き生きとして ひとところを見ていた 彼女はどんな過去を持っているのだろう 風呂敷き包みをきちんとかかえ どんな仕事をしているんだろう 亭主や子供があるんだろうか 底本:「中野鈴子全詩集」フェニックス出版    1980(昭和55)年4月30日初版発行 底本の親本:「中野鈴子全著作集 第一巻」ゆきのした文学会    1964(昭和39)年7月10日発行 入力:津村田悟 校正:夏生ぐみ 2019年12月27日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。