途中で 中野鈴子 Guide 扉 本文 目 次 途中で わたしは途中で一人の女とすれちがった 女のかおは白粉と紅で白く赤く美しかった 背が高くふっくら円かった 年は二十三四 そして藤色チリメンの長袖 厚いフェルト草履の大股でトットッと歩いて行った それは大変に自慢そうで からだ全体が得意で一ぱいのようだった わたしは洗いざらしの浴衣を着て 青じけた顔をうつむけて通りすぎた わたしは顔をうつむけて通りすぎた そうしてわたしは振りかえった 振りかえった時 わたしの胸はわくわくとこみ上げた いくらでも威張りなさい いくらでもおけつを振りなさい あなたがそうしてじゃらじゃらしている間に わたしたちが何をしようとしているか 何処に向かって着々としているか 高慢ちきな娘よ この陽に焼けたゆがんだ顔で みすぼらしいわたしたちが何をしでかすか 何をしでかすか 振りかえった時 わたしの胸はわくわくとこみ上げた わたしの胸は色あせた浴衣の中で焼けた 底本:「中野鈴子全詩集」フェニックス出版    1980(昭和55)年4月30日初版発行 底本の親本:「中野鈴子全著作集 第一巻」ゆきのした文学会    1964(昭和39)年7月10日発行 初出:「婦人戦旗 第一巻第二号」戦旗社    1931(昭和6)年8月1日発行 ※初出時の署名は「一田アキ」です。 入力:津村田悟 校正:夏生ぐみ 2018年12月24日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。