絶望の足 萩原朔太郎 Guide 扉 本文 目 次 絶望の足 魚のやうに空氣をもとめて、 よつぱらつて町をあるいてゐる私の足です、 東京市中の掘割から浮びあがるところの足です、 さびしき足、 さびしき足、 よろよろと道に倒れる人足の足、 それよりももつと甚だしくよごれた絶望の足、 あらゆるものをうしなひ、 あらゆる幸福のまぼろしをたづねて、 東京市中を徘徊するよひどれの足、 よごれはてたる病氣の足、 さびしい人格の足、 ひとりものの異性に飢ゑたる足、 よつぱらつて堀ばたをあるく足、 ああ、こころの中になにをもとめんとて、 かくもみづからをはづかしむる日なるか、 よろよろとしてもたるる電信柱、 はげしきすすりなきをこらへるこころ、 ああ、ながく道路に倒れむとする絶望の足です。 底本:「萩原朔太郎全集 第三卷」筑摩書房    1977(昭和52)年5月30日初版第1刷発行    1986(昭和62)年12月10日補訂版第1刷発行 入力:kompass 校正:小林繁雄 2011年6月25日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。