小説集「山吹の花」後記 豊島与志雄 Guide 扉 本文 目 次 小説集「山吹の花」後記  短篇集を一冊まとめるについて、作品をあれこれ物色してるうちに、つい、近作ばかり集める結果となってしまった。時間的に距離の近いものほど、感情のつながりが濃いからであろうか。その代り、作品の出来栄えについては、却って自分には見えにくい。  校正刷を一覧したところ、淡々と書き進めた作品もあるけれど、それよりも、勝手気儘に書きちらした作品の方が多い。言いたいことを端的に表現してしまいたかったのだ。もう少し、構想をねり、造形に努力した方が、よかったのかも知れない。だが、小説という形式に対し、何かしら怒りっぽく、心平らかでないものが、どこかにあったらしい。つまり、私小説的なエッセンスとでも言えるものを、随所にばらまく結果ともなった。  昔から私の作品は、だいたい習作的なものが多かったが、これらの作品もその例にもれない。将来はどうなることやら。  最近私は病を得て、当分静養、執筆を避けている。そのため、いろいろ考えることも多い。或るいは本書が、私の創作傾向の一転機となるかも知れないし、ならないかも知れない。もう少し考えてからのことだ。 底本:「豊島与志雄著作集 第六巻(随筆・評論・他)」未来社    1967(昭和42)年11月10日第1刷発行 初出:「山吹の花(限定版)」筑摩書房    1954(昭和29)年1月 入力:門田裕志 校正:Juki 2013年5月11日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。