生活の様式 宮本百合子 Guide 扉 本文 目 次 生活の様式      芍薬 「これ 八百屋の店先に バケツにつけてあったの。一束八銭よ これだけで十六銭 やすいでしょう。こないだ夜店で一輪五銭の蕾買って来たら みんなさいて迚もうれしかった──この色少し気にいらないんだけれど……」    対照 「このチューリップは傑作だ。サティンのようにつやがある。」  そして、わきの紙をとって「一輪いくら? 一本五銭?」とかくと 咲 その鉛筆をとって 「四本十銭とかく」 「じゃあっちはいくら?」  赤い芍薬をさす 「五銭?」 「それに 一たしただけ」 「なかなかよろしい」  咲、自家用にのって、やすい花屋をさがして吉祥寺前の問屋とかで買って来た由。  芍薬二輪ぐらいずつ大切にいけられている、      額 「これいい絵ね だれの?」 「淳さんの、恐らく淳さんの一番いい絵じゃないかって 云われているの、  鶴さん大自慢ですよ 俺が其を見つけたって──」 「いくら」 「五円 お礼にあげたの、それもついこの間。──箇展で赤札つけといてね」 「こっちは光子さん」  自分の肖像    対照  大掃除 サイドボードを動かす  上の下らぬ大額をおろす。買い手が見つけられるから。 「あれを買うって?」 「本当?」 「本当!」 「へーえ、あれお父様ただ貰ったんだろう?」 「そうじゃないらしいわ、この間帳面見たら 野原五人立ち200って書いてあるから きっとこれだと思うわ」 「200だしてこれを買ったの?──どうかと思うね」 底本:「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社    1981(昭和56)年5月30日初版発行    1986(昭和61)年3月20日第2版第1刷発行 初出:同上 入力:柴田卓治 校正:磐余彦 2004年2月15日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。