雨の日 宮本百合子 Guide 扉 本文 目 次 雨の日  ねばねばした水気の多い風と、横ざまに降る居ぎたない雨がちゃんぽんに、荒れ廻って居る。  はてからはてまで、灰色な雲の閉じた空の下で、散りかかったダリアだの色のさめた紫陽花が、ざわざわ、ざわざわとゆすれて居るのを見て居ると、一人手に気が滅入って仕舞う。  影の多い書斎で、わびしい気持で、古雑誌などを繰り返して居る私は、ほんとに何だかみじめな、すねものの様に見える。  遠くの方から、ザザーッと、波の寄せる様な音をたてて風の渡って来るのを聞くと、秋の末の、段々寒さに向う頃の様な日和だと染々思う。  亡くなった妹の事や、浅ましい身に落ちて行く友達が悲しく思い出された。 底本:「宮本百合子全集 第三十巻」新日本出版社    1986(昭和61)年3月20日初版発行 ※1915(大正4)年8月2日執筆の習作です。 入力:柴田卓治 校正:土屋隆 2008年2月28日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。