宮本百合子


青銅の扉に秘密を閉して

もだせる夜の厳さよ!

万物はかたずのみて

闇に立ち迷う奇蹟をながめ

故知らぬ暗示に胸をとどろかす

偉なるかな!

奇なるかな!

生あるものは総てかく低唱しつつ

厚き帳のかなた身じろぐ夜の精を見んと

行手すかしつつさぐり見るなり

無限の闇の広き宙には

乾坤の敗者の歎きと

勝者の鬨の声と

石棺の底より

過去を叫ぶ亡霊のうごめき

奇しき形に

其の音波を伝えつつ

闇に生れ闇に消え行く──

そが中を神秘は

ささやかなる各々の細胞となりて

うす青く輝きつつ飛び違う──

底本:「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社

   1981(昭和56)年1225日初版

   1986(昭和61)年320日第5

初出:「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社

   1981(昭和56)年1225日初版

入力:柴田卓治

校正:土屋隆

2009年129日作成

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