冠松次郎氏におくる詩
室生犀星



つるぎ岳、冠まつ、ウジちようくまのアシアト、雪渓せつけい、前つるぎ

こなダイヤとほし、凍つた藍のやま々、冠まつ、ヤホー、ヤホー、


廊下らうかがる蜘蛛くも人間にんげん

まつ廊下らうかのヒダで自分のシワを作つた。

まつ皮膚ひふ皮膚ひふに沁みる絶壁ぜつぺきのシワ、

まついはく。

まつかんがへてゐる電車でんしやなか

黒部峡谷くろべけふこく廊下らうかかべ

廊下は冠まつみゝモトで言ふのだ、

まつよ 冠まつよ、


まつく、

黒部くろべうは廊下、した廊下、おく廊下、

てつでつくったカンヂキをはいて、

てつできたへた友情いうじやうをかついで、


つるぎ岳、立山たてやま、双六たに黒部くろべ

あんな大きいやつともだちにしてゐる冠まつ

あんな大きいやつがよつてたかつふのだ、

まつくらゐおれをつてゐる男はないといふのだ

あんなきよ大なやつの懐中で、

こなダイヤのほししたで、

まつは鼾をかいて野営やえいするのだ。

底本:「紀行とエッセーで読む 作家の山旅」ヤマケイ文庫、山と溪谷社

   2017(平成29)年31日初版第1刷発行

底本の親本:「読売新聞」

   1930(昭和5)年817

初出:「読売新聞」

   1930(昭和5)年817

入力:富田晶子

校正:雪森

2020年124日作成

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