ある日
中野鈴子



ある日

市電ののりかえで待っていると

一人の女の人がやってきた

洋服も帽子も見たこともないような古い型で

汚れて穴もあいている

断髪の毛は赤ちゃけ

木綿靴下の足がすりこぎのように弾力がない


電車がきて

彼女はわたしの前に向かい合った

健康でない

むしろやつれた細面ほそおもてのかお

けれども

目は

生き生きとして

ひとところを見ていた


彼女はどんな過去を持っているのだろう

風呂敷き包みをきちんとかかえ

どんな仕事をしているんだろう

亭主や子供があるんだろうか

底本:「中野鈴子全詩集」フェニックス出版

   1980(昭和55)年430日初版発行

底本の親本:「中野鈴子全著作集 第一巻」ゆきのした文学会

   1964(昭和39)年710日発行

入力:津村田悟

校正:夏生ぐみ

2019年1227日作成

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