五階の窓
合作の五
国枝史郎
|
「おやっ!」
と叫んだ長谷川の声がひどく間が抜けて大きかったので、山本は危なくコーヒー茶碗をテーブルの上へ落とそうとした。
「おい、いったいどうしたんだい、大声が自慢にゃあならないぜ」
「シェーネス・フロイラインが通るのだよ」
長谷川は窓へ飛んでいった。
「どれ」
と言うと、山本も長谷川の肩越しに窓外を見た。
雪が止んだので人通りがある。
一人の娘が歩いていく。深くうつむいているとみえ、ショールを抜いて頸脚が、少し寒そうに白々と見える。それが瀬川艶子であった。やがて人影に隠れてしまった。
「わが少女去りにけりか」
長谷川はテーブルへ帰ってきた。
「それだけの詠嘆でいいのかい」
椅子へ腰かけた山本は、ちょっと皮肉に言ったものである。
「探偵小説家としてはいけないさ。だが、ぼくは場合によっては探偵小説家なんか廃業したっていいよ、彼女さえぼくを愛してくれたらね」
「不心得だね、食えないぜ」
「なに、そうしたら新聞記者になる」
「ぼくのお株を奪うのだね」
「あっ、なるほど、そういうことになるか」
「探偵小説家でいたまえよ」
「探偵小説家でいる以上は、詠嘆ばかりしてはいられないね。よろしい、ひとつ研究してみよう。彼女は動乱の渦中にいる、煩悶していなければならないはずだ。いや、今朝会った様子では、事実ひどく煩悶していたよ。それなのにどうしたんだろう、暢気らしく午後二時になると散歩している」
「だめだなあ、そういう見方は」
山本は大袈裟な身振りをした。
「あれだけ首をかしげていれば、暢気らしいとは言えないよ。そうして、ぼくの観察によれば、散歩などとは思われないね。目的があって歩いていくのさ」
「いったい、どんな目的だろう?」
「きみ、きみ、そいつが知りたいのかい。それは非常に簡単にできる。艶子さんに訊けばいいじゃあないか」
「だって、そいつは不作法だよ」
「ではもう一つ、尾行するほうがいい」
「紳士的でないよ、ごめんこうむろう」
「どうもね、きみが紳士にしては洋服の型が少し古い」
「日本じゅうの雑誌社へ怒鳴り込んでくれ、もう少し原稿料を上げるようにって。こう貧乏じゃあ流行は追えない」
とうとう笑いが爆発してしまった。
どんなに笑い声が大きかったか? 『すみれ軒』のウエートレスたちがいっせいに二人を見たことによって、充分想像されようではないか。
そこで二人は別れることにした。
一人になった長谷川は、やはり探偵小説家として必要な解剖と推理の中へ、没頭しながら歩いていった。
(時間と傷、時間と傷、問題は二つに局限されている。四時二十分から三十分の間に、西村は息を引き取っている。艶子が一撃を加えたのは四時五分ごろと認めてよい。艶子の一撃でできた傷が西村の肩の打撲傷だ。が、こいつでは死にっこはない、少女の腕力というものはその色目より微力なもので、まして得物が鈍器だとするとなかなか人は殺せない。もっとも西村は病気でもあって、艶子の一撃がそれに影響し、そのため息を引き取ったとすれば成立しないものでもないが、死体解剖の結果なるものが報告されていないのだから、どうもおれには見当がつかない。死体は解剖したんだろうか? まずそれはそれとして、後頭部にあった打撲傷なるものが問題とすればすべきだが……どころの騒ぎか、こいつが問題なのだ。だれだろう。後頭部を食らわせたやつは? 野田か、それとも将校マントの男か? あるいはいまだに登場しない、全然別の人間か? 野田はすでに捕らえられている、警察のほうで調べるだろう。まだ登場しない人物だとすると、登場するまで待たなければならない。で、目下のところでは、将校マントの人間に嫌疑がいちばん深いというわけだが、わが優秀なる玄人探偵諸兄が、いまだに見つけないところをみると、どこかに上手に隠れているのだろう。上手に隠れているということがすでに怪しいといってよい)
一時止んだ雪がまた降ってきた。
(将校マントの人間が舟木新次郎だと仮定するとさらに範囲は縮小されるのだが、年齢においてちょっと不合理だ、エレベーターが降りてきたときは、三十歳前後の人間に見えたが、冬木刑事と連れ立ってSビルディングへ行った際、貼紙をして逃げていったときには四十歳ぐらいの年恰好に見えた。もっとも、この時は着色眼鏡をかけ、紳士風をしていたのだから変装といってもよいかもしれない。ところで、本当の舟木の年は二十八、九だということだ)
雪がだんだん大降りになった。
(二十八、九なら三十には見える。しかし、四十には見えないはずだ。そこでまた変装ということになるが、変装して働くというような芝居ぎのある人間かしら? やっぱり、舟木と将校マントとは別物と見なければならないらしい)
どうやら吹雪になりそうであった。歩いている人もまばらである。
(聞けば舟木は主義者とやらで、一方で主義から西村を憎み、他方ではその姉のお蝶というのが西村の愛人になっているのを遺憾に思っていたそうだが、そのお蝶という愛人などが関係してはいないだろうか? 犯罪の背後には女あり! その女が艶子だけだとみるのは不詮索ではあるまいかな。……さて、ところで艶子だが、自分の家の財産を西村に横領されたということを知っていたのではあるまいかな? もしこいつを知っていたとすると、復讐という観念がしぜん心に湧かなければならない。復讐心を持っていたとすると、西村の恋を拒絶したことがいっそう合理的に解釈できる。が、しかし、それと同時に、彼女の立場は危険になる)
「おや!」
と、長谷川は呟いた。数間の前方に、雪を浴びながら艶子が歩いているからであった。依然としてうつむいている。
(ははあ、こうなると山本のほうがおれより観察が勝れていたわい。こんなに雪が降っているのに、降っているとも知らないように考え込んで歩いている様子は、決して暢気な散歩ではない。目的があってどこかへ行くのだ。どうもこうなれば非紳士的ながら、跡をつけざるを得ないなあ)
やがて賑やかな街通りへ出た。
人もずいぶん通っている。
と、一人の薄汚い男が手早く艶子へ紙片を渡した。
「あっ、こいつは怪しいぞ!」
長谷川は呟いたが、笑いだしてしまった。
(おれもこうなると探偵狂だよ、ひろめ屋がちらしを配ったのさえ、ものものしく見なければならないんだからなあ)
ひろめ屋は彼へもちらしをくれた。
〝十五銭均一、紳士の食べる洋食〟
こう印刷がされてあった。
〝浮世はたいへん暮らしよくなった。いまに見ていろ、十五銭均一で紳士の定食が食べられるから〟
なにげなく裏を返してみた。
(これは驚いた、どうしたことだ!)
ちらしの裏に万年筆で、こんなように書かれてあったからである。
〝きみが艶子をつけているように、ぼくはきみをつけているよ〟
これには相当驚いてよい。
長谷川はじっと字面を見た。
どうしたものか笑いだしてしまった。
(このトリックはもう古いや。外国の下手な探偵作家があきあきするほどくり返し、そうして日本の探偵作家が真似をしはじめたトリックだ。だが、手数はかかっている。だれかが──おれには分かっているが、とにかく艶子をつけているのだ。そうして、おれがつけているのが、ちょっと邪魔っけに思われるのだ。そこでひろめ屋を抱き込んだってわけさ。先回りをしてちらしをもらい、これだけの文句をしたためて、ひろめ屋のやつに小銭をくれ、自分はどこかに隠れていておれが通ったとき合図をしたものさ。そこで、ひろめ屋め、このちらしをおれに渡したというものさ。脅しておれに手を引かせよう、こう思ったに相違ない。だが、慌てて書いたとみえ、書体がちっとも変わっていない。まずい字だなあ、気の毒なくらいだ。こんなまずい字を書くやつは新聞記者以外にはありゃあしない。……おれはどこまでもつけていくよ)
だが、そいつは失敗であった。
彼が字面を調べている間に、艶子の姿が見えなくなった。
そこは折悪しく十字路であった。
(おれに身体が四つあるなら、四方に向かって飛んでいくのだがどうもいけない、一つしかない。一つの身体をもてあましているのだ、四つもあってたまるものか)
長谷川はそこで厳粛になった。
(しかし、結局おれという人間も、トリックに引っかかったというものだな。積極的には手を引かなかったが、消極的には手を引いたんだからなあ)
尾行を断念することにした。止むを得ざるの断念なのである。
(艶子はちょっと奇麗な娘だ。だが、もちろんざらにある程度さ。悲劇の渦中で知ったので、印象深いというまでさ。大概の女は悲劇中に見ると、別嬪に見えるから面白いよ。ところで、こいつを喜劇中に見ると、それこそもっと別嬪に見える。泣きっ面より笑い顔のほうがいいさ。いちばん困るのは中間性の面だ。言い換えると退屈の面なんだからなあ)
未練なくあとへ引っ返そうとして、ふと見ると巨大な建物があった。
(ああ、有名なK病院だな)
がらりと考えが一変した。
(彼女は病院へ入ったはずだ)
きわめて簡単な推理であった。字面の研究に費やして艶子から視線を離したのは、わずか二分足らずであった。艶子がいないと気がつくと、彼は十字路の四方を見た。ばらばらと人は通っていたが、艶子の姿は見えなかった。どこかへ寄ったに相違ない。
(病院へ患者を訪ねたのか、彼女が診てもらいに行ったのか、どっちみち病院へ行ったものとみれば、考え込んでいた彼女の様子がいっそう合理的になる。病院へ行くということは愉快なことではないのだからな。おれも病院へ行ってみよう。おれだってぴんぴん達者のほうではない、艶子の発見が無駄に終わっても、こんな機会を利用して健康診断をしてもらうのも、また大いによいことではないか)
門を入ると広い前庭で、玄関で一銭(当時の通貨の最小単位)のスリッパを借り、受付へ行ったときである。
「こっちだこっちだ」
という声がした。
見ると、山本が招いている。
「いけねえ。こいつめ、おれより上手だ」
「無駄を言うなよ。黙っておいでよ、あとで詳しく説明してやるから」
幾筋かの廊下が通っていた。その一つを小走っていく。で、長谷川もあとを追った。患者・看護婦・付添人・医者などが忙しそうに歩いている。廊下の天井がガラスなので、雪降りの日だがなかなか明るい。と、廊下が丁字形になった。それを左へ曲がったとき、にわかにあたりが暗くなった。ごーごーという音、しゅっしゅっという音、ぱちぱちとはぜる音!……べつに驚く必要はない。いくつかのレントゲンが、いくつかの部屋で活動をしているのである。
「見たまえ」
と、山本が囁いた。
「あそこに艶子がいるじゃあないか」
ドアの開いた部屋がある。やはりレントゲンの部屋とみえて、例の音が聞こえている。その横手に腰かけがあり、そこに艶子が腰かけている。
二、三人の人が開いた戸口から部屋の様子を眺めている。レントゲンの活動が珍しく、それで見ているに相違ない。
「ね、きみ、艶子はあの腰かけで人と待ち合わせているのだよ」
こう山本が囁いた。
「どうしてそんなことが分かるんだい?」
それが長谷川には不可解であった。
「艶子は診察券を買わなかったのだ」
「前に買って持っているのかもしれない」
「もし持っているなら受付へだね──うん、レントゲン科の受付へだ、少なくも出さなければならないはずだ。なるたけ早く出したほうが、早く治療をしてもらえるからさ」
「面会に来たんじゃあないかしら?」
「もし面会に来たのなら、すぐに病室へ行くはずだよ。ところが、艶子は病院へ入るとうろうろ廊下を歩いた末、あの腰かけへかけたのさ。それっきりちっとも動かないのだ。だれかにあの位置を指定され、それであそこへ行ったようにね」
「それはそうと、ぼくには不思議でならない。洋食屋のちらしを利用して、ぼくを引っかけたのはきみだろうが、どこにきみはいたのだい? ちっとも姿が見えなかったが」
「ああ、それか。なんでもないことだ。……おや!」
と、にわかに山本はびっくりしたように囁いた。
「見たまえ見たまえ、将校マントの男だ!」
かつてSビルディングのエレベーターから、ひょいと外へ飛び出した三十前後の下品な男が廊下の向こうからやって来た。
その男に寄り添いながら、非常にあだっぽい大年増がそろりそろりと歩いてきた。
「あっ、驚いたなあ、お蝶って女だ」
「へえ、あいつがお蝶なのかい?」
長谷川の好奇心は膨張した。
「殺された西村の愛人のね、舟木新次郎の姉に当たるね」
「どうしてきみは知っているんだい?」
「社でも警察でも張り込んでいるのだ、舟木が立ち回るに相違ないとね。ぼくも一度張り込みに行って、それであの女を知っているのさ」
一人の看護婦が向こうから来て将校マントの男へ挨拶し、そのままこっちへやって来た。
「ちょっとぼくは調べてくる。きみ、あいつらに気をつけてね」
山本は看護婦を追っかけていった。
お蝶と、そうして将校マントの男が艶子の前まで来たときである。ひょいと艶子は立ち上がった。三人で何か囁き合い、それから一緒に腰をかけた。そうして、熱心に話しだした。
(どうかして話を聞きたいものだ)
こうは思ったものの、長谷川は近寄っていくことが躊躇された。艶子に顔を知られているからだ。
呻くようなレントゲンの活動の音で、三人の話し声は聞こえない。
「おい」
と、その時、囁く者があった。
振り返ってみると山本である。
「面白いことを聞いてきた。将校マントのあの男はね、昨日、入院したんだそうだ」
「なんていう名だい? 舟木新次郎かな?」
「いや、松本正雄っていうそうだ」
「で、病名はなんなんだい?」
「それが非常におかしいのだ。入院するほどの病気なんか、持っていないということだ」
「ふーん、こいつはおかしいね」
「無理につければ神経衰弱、強迫観念に捉えられているそうだ」
「舟木新次郎じゃあないだろうか?」
「ぼくもそんなように思うのだ。……犯罪人の隠れ場所としては病院なんか絶好だからなあ」
「それに舟木の姉に当たるお蝶という女が会いに来た以上はね……」
「だがあの女、張り込みをまいてよくこんなところへ来られたなあ。……それはそうと接近してみよう」
山本は三人へ近寄ろうとした。
「おい見つかるぜ、危険だぜ」
「あいつらの利用している情景を、逆用してやるのだから大丈夫さ」
「そりゃあいったいどういう意味だい?」
「将校マントの男はだね、入院しているから部屋を持っている。面会人の場合にはそこで話すのが普通じゃあないか。ところが、あいつらそいつをしない。というのには理由がある。一室にこもって密談すれば、かえって人に怪しまれるからさ。で、あの場所を選んだのさ。人通りがあって、薄暗くて、レントゲンの音がごーごー聞こえる。あそこでこそこそ話していればまずめったには怪しまれないよ。安心して話しているに相違ない。そこをこっちで利用するのさ。ね、部屋の戸が開いているだろう。あそこで二、三人の患者がもの珍しそうに覗き込んでいる。そこで、ぼくたちもあそこへ行き、レントゲンを見ているような様子をして立ち聞きしたら感づかれはしないよ」
そこで、二人はそのとおりにした。ちょうど部屋の前へ立ったときである。
「いらっしゃったわ、職長さんが」
こういう艶子の声がした。
丸い赭顔で黒い髯、職長の名にふさわしい一人の男が廊下の向こうから、三人のほうへ歩いてきた。
「やあ。いらっしゃい、桝本さん」
こう言ったのは将校マントの男だ。
「やあ」
と言うと、その男は腰かけへのっそりと腰かけた。
「おい」
と、山本が囁いた。
「西村工場の工員長、桝本順吉っていうやつらしいね」
「うん」
と、長谷川は囁き返した。
「あの四人、ぐるとみえる」
「目で見るなよ、耳だけで聞こう」
二人は熱心に聞き耳を立てた。だが、はっきりとは聞こえない。レントゲンの音が遮るからである。そのうち突然、驚くべき言葉が桝本の口から飛び出した。
「きみたち三人揃っていると、やはり姉弟は争われないなあ。よく似ているぜ、そっくりだ」
「ふーん」
と言ったのは長谷川である。
「あいつら三人姉弟なのか、では、いよいよ将校マントの男は舟木新次郎に定まったね」
「艶子が二人の妹だとは、まったくどうも意外だったなあ。……おい、もう少し接近しよう」
どうも話が聞き取れない。何か桝本が言ったらしい。と、激昂した将校マントの男の次のような声が聞こえてきた。
「ぼくじゃあないよ! 断じて違う!」
「きみでなくてだれなものか」
これは桝本の声である。
すると、続いて女の声がした。
「この人はひどく短気ですけれど、まさかそんなことはしませんよ」
それはお蝶の声であった。
「そんな必要もなかったのですもの」
「だって、怨みがあるはずじゃあないか」
また桝本の声がした。
「三人姉弟の復讐ってやつさ」
「着々遂げられていたんですからね」
これもお蝶の声であった。
「あの人、人に殺されずとも、自分で首でもくくらなければ立ち行かなくなっていたんですからね」
「そいつも知っていましたよ」
これは桝本の声である。
「内では永年お蝶さんが絞って絞って絞りまくるし、外では最近この人がストライキを起こして攻め立てるし、事務所ではお艶ちゃんが澄ました顔をして、奇麗なところをちらつかせるし、大将だってふらふらしますよ。それに、業界の不況でね」
「艶ちゃんだけはかわいそうですよ。……最近までそんなこと知らなかったんですもの」
これもお蝶の声である。
そのまま話し声は聞こえなくなった。と、また桝本の声がした。
「二千円を独り占めはひどかろうぜ」
「そいつもぼくの知ったことじゃあない」
激昂した将校マントの声だ。
「きみこそいちばんの悪党だぜ!」
「あるいはそうかもしれないね」
桝本の声はふてぶてしい。
「工員を煽動してストライキを起こさせ、そいつを種に社長を強請る。……きみのような人間がいるからだよ、運動が途中で挫折するのは」
「二千円を出せよ、二千円を」
「知らないと言ったら知らないんだ」
「密告するぜ、きみの居場所を」
桝本の声は威嚇的である。
「言うがいいや、ぼくは平気だ」
「では、なぜこんなところに隠れているのだ」
「きみが隠れろって言ったからさ」
「きみに嫌疑がかかっているからさ」
「嫌疑をかけさせたのはきみじゃあないか」
「ぼくが警察で言ったことは、ありゃみんなほんとのことじゃあないか」
「ねえ、桝本さん」
と、お蝶の声がした。
「持っていないと思いますよ、この人そんな大金はね……」
「だが」
と、桝本の声がした。
「後ろから殴ったのはきみだろうね?」
「いいや!……しかし!……しかしだね……」
この次の言葉は重大である。長谷川は思わず振り向いた。
「おや、あなた、長谷川さんね!」
艶子の声がつっ走った。突然、桝本が飛び上がった。
「あっ、来やがった、沖田刑事!」
底本:「五階の窓」春陽文庫、春陽堂書店
1993(平成5)年10月25日初版発行
初出:「新青年」博文館
1926(大正15)年9月号
※この作品は、「新青年」1926(大正15)年5月号から10月号の六回にわたり六人の作者によりリレー連作として発表された第五回です。
入力:雪森
校正:富田晶子
2019年4月26日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。