〔いつたん此世に〕
高村光太郎


 いつたん此世にあらわれた以上、美は決してほろびない。

 眞理はつねに更生せられて、一つの眞理から次の眞理へとうつりかわり、前の眞理はほろびる。それが眞理の本然である。

 美は次々とうつりかわりながら、その前の美が死なない。紀元前三千年のエジプト藝術は今でも生きて人をとらえる。

 一民族の運命は興亡常ないが、その興亡のあとに殘るものはその民族の持つ美である。その他のものは皆傳承と記録との中にのみ殘るに過ぎない。

 美を高める民族は人間の魂と生命とを高める民族である。

底本:「高村光太郎全集第五卷」筑摩書房

   1957(昭和32)年1210日初版第1刷発行

   1995(平成7)年220日増補版第1刷発行

初出:「キング 第三十巻第一号」

   1954(昭和29)年11日発行

※〔〕付きの副題は、作品の冒頭をとって、ファイル作成時に加えたものです。

※底本は旧字新仮名づかいです。なお拗音、促音は小書きではありません。

入力:岡村和彦

校正:nickjaguar

2019年329日作成

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