服裝語彙分類案
柳田國男
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一、晴着、よそ行き
最初晴着をどういふ場合にこしらへ、又如何なる場合に是非着たかを、注意してかゝる必要がある。現在行はれて居るものは形が皆新らしく、是によつて經過を察することは六つかしい。晴着を着る時は多くなつて來て居る。始めて用意した際の目的に、重きを置くのが至當である。
二、ふだん着
田舍では不斷には是を着ないから別の名がある。是を着るのは雨の日か夜か。とにかく外見をかまはぬ場合が多く、從つて之を見ると實際の内の要求のどこに在つたかゞわかる。
三、仕事着
勞働の種類及び態樣の、如何に變つて來たかは仕事着からも見て行かれる。それが又今日の普通のキモノと大いに變つて居る點でもある。
四、筒袖と卷袖
この以前にもう一つ廣袖の半袖があつた。それが筒となり次にモヂリとなつたのには、我々の生き方の發達が原因をなして居る。古い仕事着の形も現在はまだ根こそぎには無くなつて居ない。
五、袖無しと背負ひ
この古くからあつた衣服を、色々と工夫し改良して來た歴史は、細かく各地の例を比較して行くとやゝ明かになる。
六、長着物と寢具
常民の休息といふことが、この現象から少しづゝ考へられる。是を着て居る期間に世の中は段々に變つて行つたやうである。
七、身支度の簡易化
急いで仕事をしたり止めたりする者が多くなつて、仕事着の不便が感じられ始めた。今日の割烹着が生れるまでに我々はまだ色々の試みをして居る。襷が晴着から仕事用に轉落した。
八、袴の種類と變化
袴に不斷着と近いものが出來て、元は一つのものとは思はれぬ程に外形の變化が區々になつた。都市に全く用ゐぬ人が多くなつて、此問題は不當に看過せられて居る。各地の實状を詳しく記述して置く必要がある。
九、前掛と下物
女が改良した男袴を共用するやうになつて、在來の女袴は追々に廢れたやうである。が、今でもまだ名なり形なりが限地的には殘つて居る。内外二種の裳があつて、其上に更に前掛腰卷の類があつたのが、三者は可なり混同して居るやうに思はれる。今の名稱は多くは當らぬものでも、歴史だけは推測せしめる。
一〇、帶紐の類
帶はどういふ經路を通つて、今日のやうな奇怪なる形状に變じて來たか。多くの現實の例から推すと、是にも突如たる發明は一つも無かつたやうである。
一一、子負帶など
小兒の爲に特に古い生活樣式の取殘されてある場合が認められる。國の南北の子負ひ帶などが其一つの例である。
一二、衣服の着こなし
人の笑つたりいやがつたりする身なりを集めて見ると、以前の生活標準が可なりよくわかる。昔の人は我々よりも遙かに外形に敏感であつた。
一三、衣服管理
箪笥といふものが出來るまで、衣紋竿といふものが普及するまでの状況。麻の衣は長持ちがする故に、洗濯や保存の技術が、今日よりも重要であつた。
底本:「定本柳田國男集 第二十九巻」筑摩書房
1964(昭和39)年5月25日発行
初出:「民間傳承三卷六號、七號」
1938(昭和13)年2月、3月
入力:フクポー
校正:津村田悟
2019年12月27日作成
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