かいじん二十めんそう
江戸川乱歩
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あるおひるすぎのことです。
東京のまつなみ小学校のこうていで、みんながあそんでいました。
休み時間なので、一年生から六年生まで、かけまわったり、キャッチボールをしたり、きかいたいそうをしたりして、あそんでいたのです。
「あっ、ヘリコプターだっ」
だれかがさけびました。
「ほんとだ。ヘリコプターだ」
口々にさけびながら、みんな空を見上げました。
よくはれたまっさおな空に、ヘリコプターが小さくうかんでいました。高くとんでいるので、のっている人のすがたは見えません。
「あっ、びらだよ。びらをまいたよ」
また、さけび声がわきあがりました。
おお、ごらんなさい。ヘリコプターから、さあっと、こなのようなものがふき出したかと思うと、それが、きらきらとかがやきながら、ゆっくりおちてくるのです。
おちるにつれて、こなのようなものが、すこしずつ大きくなり、それが、空いちめんにひろがってきました。
「きれいだねえ。金色に光っているよ」
ほんとうに、そのひとつびとつが、金色に光っていました。
紙のびらではありません。なんだかへんなものです。
「あらっ、あれ、おめんだわ。金色のおめんよ」
女の子がさけびました。
そうです。それは、おもちゃやでうっている、セルロイドのおめんのようなかたちをしていました。
何百という金色のおめんが、空からふってくるのです。ちかちか、きらきらそのうつくしいこと。子どもたちは、こんなうつくしいけしきを見たことがありませんでした。
しばらくすると、そのたくさんのおめんが、こうていのあちこちにおちてきました。
みんなは、「わあっ」と、その方へかけ出し、あらそって、金色のおめんをひろいました。
その日、学校がおわると、おなじほうがくへかえる子ども七人が、一かたまりになって歩いていました。
みんな、金色のおめんをかぶっています。あのとき、おめんは、百いじょうもこうていへおちたのです。みんなが、おめんをもっていても、ふしぎはありません。
それは、セルロイドを金色にぬったおめんでした。
金色にぴかぴか光ったかおが、にやりとわらっているのです。くちびるのりょうはしが、きゅっと上へ上がった、三日月がたの口です。
「きみたち、そのおめんは、なんだか知ってるかね」
とつぜん、うしろで、声がしました。ふりむくと、せびろをきたおとなの人が、やっぱり、金色のおめんをかぶって立っているのでした。
「あっ、すぎ山先生だよ」
だれかがいいました。うけもちの先生ではないので、よくわかりませんが、なんとなく、すぎ山先生ににています。
「このおめんは、なんだか知っているかね」
すぎ山先生らしい人は、またたずねました。
「知りません。どうして、こんなものをまいたのでしょう」
五年生の石村たかしくんがいいました。
「おうごんかめんだよ」
「えっ、おうごんかめんって……」
「きみたちは知らないかね。金色のかおをしたおうごんかめんという大どろぼうだよ」
「あっ、あのおうごんかめん。でも、なぜ、こんなおめんをばらまくのでしょう」
「それは、おうごんかめんが、このへんにあらわれるぞという前ぶれだよ。あいつは、そんなことをするのが大すきだからね」
すぎ山先生らしい人は、そういって、おかしそうにわらいました。
「この中に、石村たかしくんはいるかね」
「はい、います。ぼくです」
「それから、きみのいもうとのミチ子ちゃんは」
「ええ、いるわ。あたし、ミチ子よ」
ミチ子ちゃんは、二年生のかわいい子でした。
「そのふたりに、ちょっとようじがあるんだよ。さあ、こっちへおいで」
すぎ山先生らしい人は、ふたりの手をとって、よこ町にまがりました。
そこは、むかしからあるおみやで、ふかい森にかこまれた、ひるでも、うすぐらいところです。たかしくんとミチ子ちゃんは、なんだか、きみがわるくなってきました。
大きな木の立ちならんだうすぐらいところへ来ると、とつぜん、すぎ山先生のすがたが見えなくなってしまいました。
ふたりの手をはなして、大きな木のむこうがわへ行ったかと思うと、そのまま、きえてしまったのです。
きょうだいは、あちこちと、さがしまわりましたが、どこにも、先生のすがたはありません。
しかたがないから、かえろうとすると、「えへへへへ……」という、きみのわるいわらい声がして、大きな木のみきのうしろから、からだじゅう金色にかがやくかいぶつが、すがたをあらわしました。
あっ、おうごんかめんです。
すぎ山先生が、いつの間にか、おうごんかめんのすがたにかわって、ふたりの前にあらわれたのです。
石村たかしくんと、いもうとで二年生のミチ子ちゃんは、すぎ山先生だと思っていた人に、古いおみやの森の中につれこまれました。
ところがそのひとは、おそろしいおうごんかめんだったのです。
おうごんかめんこそ、人々からこわがられていたかいじん二十めんそうなのです。
「わっははは。どうだ、おれがなにものかわかっただろうな。いや、なにも、こわがることはない。きみたちにらんぼうなことはしない。ただ、きみたちのおとうさんのもっている、りっぱなえがほしいのだ。あしたの夜、ちょうだいに上がると、おとうさんによくいっておくのだよ。わかったね」
そういったかと思うと、二十めんそうは、ぱっと森の中からかけ出していきました。
そして、すこしたつと、とおくから、じどうしゃの走り出す音がきこえました。きっと、おみやの外にじどうしゃをまたせておいたのでしょう。
たかしくんとミチ子ちゃんは、いそいで家にかえり、おとうさんにこのことを話しました。
石村くんのおとうさんは、えがすきで、りっぱなえをたくさんあつめていました。
二十めんそうは、それをぬすみに来るというのです。
石村さんは、すぐ、名たんていのあけち先生にでんわをかけました。けれども、あけちたんていはるすで、少年名たんていの小林くんがやって来ることになりました。
小林くんは、少年たんていだんのだんちょうです。
だんいん六人と、それからけいしちょうの中村けいぶに話をして、けいじ六人をつれ、あくる日のひるごろ、石村さんの家にやって来ました。
六人のけいじと、六人の少年たちは、手分けをして、へやの入口や、まわりのにわで見はりばんをしました。
ひる間はなにごともなく、夜になりました。
小林くんは、へやの入口のろうかのいすにかけて、がんばっています。
へやの外のくらいにわには、けいじたちがまどとへいの間を行ったり来たりしていました。
みんな、手にまるいぼうのようなものをもって、いそぎ足で歩いています。
つぎの日の朝になると、石村さんが、小林くんのところへやって来ました。
「あっ、石村さん、なにごともありませんでした。へやをしらべてください。二十めんそうは、ぼくたちをおそれて、とうとうぬすみ出せなかったのです」
小林くんがそういったので、石村さんはへやの中をしらべましたが、えは一つもなくなっていません。
そこで小林くんたちはかえっていきました。
みんなのかえってしまったあとで、石村さんのところへおかしなでんわがかかってきました。
「きみは石村さんかね。ははは、とうとうだまされたね」
「えっ、なんだって。きみはいったいだれだ」
石村さんは、びっくりしてききかえしました。
「はっははは、わかりませんか。こんなでんわをかけるのは、あいつにきまっているじゃありませんか」
「えっ、あいつだって。それじゃ、きみは二十めんそうだな」
「そうだよ、おきのどくさま。きみのたいせつにしているえは、みんなちょうだいしたよ」
「えっ、ちょうだいしたって。わたしのへやのえは、一つもなくなっていないよ。ははは」
「ははは、きみの目もあてにならないね。あれは、みんなにせものだよ。
小林もにせもの。少年だんいんやけいじもにせもの。みんな、おれの子分だったのだ。
夜中に、本もののえをはずして、にせものとはめかえて、本もののほうをもち出してしまったのさ」
「えっ、あれがみんなにせものだって」
石村さんは、びっくりして、へやへとんでいって、ひとつびとつよくしらべました。
「あっ、やっぱりそうだ。本ものとそっくりにかいてあるが、みんなにせものだ」
石村さんは、まっさおになっていいました。
それにしても、小林くんまでにせものとは、いったいどんなやり方をしたのでしょうね。
二十めんそうは、石村さんのえを、ぜんぶにせものととりかえて、ぬすんでいってしまいました。
そこにいた六人のけいじと、小林くんと少年たんていだんいん六人がまもっていたのですが、それが、みんな、二十めんそうの子分のへんそうしたにせものだったのです。
ほんとうにおどろきました。
どろぼうたちにばんをさせたのですから、ぬすまれるのはあたりまえです。
小林くんまでにせものだったのです。
では、本ものの小林くんは、どうしたのでしょうか。小林くんは、二十めんそうのために、ひどいめにあっていたのです。
石村さんは、この話のはじめに、小林くんにでんわをかけましたね。
そのでんわを、石村さんの家にしのびこんでいた、二十めんそうの子分がきいてしまったのです。
小林くんは、石村さんからでんわがあると、くわしい話をきくために、じどうしゃをよびました。
小林くんが、じどうしゃにのろうとしたとき、うしろから、ひとりの男がのってきました。
その男は、小林くんをたおして、さるぐつわをはめ、手足をしばってしまいました。
この男とうんてん手は、二十めんそうの子分だったのです。
こうして、小林くんは、つれていかれたのでした。
そして、じどうしゃがとまったところは、はらっぱの中の、おかしな家の前でした。
そこは、おばけやしきの見せもの小やです。
その中には、きみのわるいゆうれいや、おもしろいおばけや、いろいろなものばかりがならんでいるのです。
手足をしばられた小林くんは、ふたりのわるものにだきかかえられて、おばけやしきのおくの方へつれこまれました。
竹やぶの中のほそい道をすすんでいきました。
すると、とつぜん、すごいかいぶつがあらわれました。
大きさは、二メートルもあり、くびが、じめんからにゅうと出ているのです。
それは、ゴリラのようでもあり、ライオンのようでもあり、人間のわるもののようでもありました。
それは、大きな、おそろしいかおでした。
ふたりのわるものは、ぼうぼうと、草のはえたじめんに、小林くんをほうり出しました。
すると、竹やぶの中から、おうごんかめんをつけた二十めんそうが、ぬうっとあらわれました。
「わっはははは……、小林か、しばらくだったなあ。きみをこうしておいて、石村のえを、ぜんぶちょうだいすることにしたよ」
小林くんは、くやしいけれども、しばられているので、なにもできません。
「今ごろは、きみとそっくりな少年と、少年たんていだんいんが六人、けいじが六人、石村の家をまもっているわけだ。
それがみんなにせもので、おれの子分というわけだ。
わっはははは。
二十めんそうのちえは、こんなもんだ。
あけちが東京にいないのが、ざんねんだよ」
といいました。
「おれは、あけちのにせものだって、ちゃんと作るからね。
ところで、きみは、すこし、このかいぶつの中で、おとなしくしているんだ。
このおばけやしきは、じつはおれのものなのでね。
めずらしいものがたくさんあるよ。きみにも、あとで見せてやるよ。はっははは」
ああ、大どろぼうが、おばけやしきをもっているなんて。
かいぶつのうしろにまわると、ちょっと見たのではわからない入口がついていました。ふたりの子分は、それをあけ、中に小林くんをほうりこんでしまいました。
これから、ポケット小ぞうが小林くんを見つけるのです。
そして、二十めんそうとのおそろしいたたかいがはじまるのです。
小ばやしくんが、おばけやしきのかいぶつのくびの中にとじこめられたのと、おなじ日のことです。
しょうねんたんていだんいんのポケット小ぞうは、なんにもしらないで、おばけやしきのちかくをあるいていました。
すると、むこうからだんいんのいの上くんがやってきました。
「あっ、ポケット小ぞうじゃあないか」
「あっ、いの上さん。なんで、そんなにいそいでいるの」
「うん、たいへんなことがあるんだ。さっきむこうで、ビーディーバッジをひろったんだ。うらをみると、ローマじで小ばやしとほってある。だんちょうのバッジにちがいない。それが、三メートルおきぐらいに、いくつもおちているんだ」
「じゃあ、小ばやしさんが、だれかにさらわれたんだね」
「うん、ぼくが、このバッジのあとをつけていくと、おばけやしきのみせもの小やのまえにでたんだ。小ばやしだんちょうは、あのおばけやしきにつれこまれたにちがいない。
それで、いそいであけち先生のところへしらせようとおもって、でんわをさがしていたんだよ」
「だめだよ。あけち先生は、大さかのほうへいって、るすだよ」
「それじゃ、しかたがない。このちかくにいるだんいんの木下くんをよんで、三人でおばけやしきにはいってみよう。小ばやしだんちょうをさがすんだ」
ふたりは、ちかくのおみせの赤でんわで、木下くんをよびました。
木下くんは、すぐにやってきました。
「木下くんは、でんわのあるだんいん五、六人にでんわをして、あとから、おばけやしきへきてくれたまえ。
だが、中へはいらないで、どこかにかくれているんだ。
そして、もし、中からふえのおとがきこえたら、ぼくたちをたすけにくるんだ。いいかい」
いの上くんとポケット小ぞうは、木下くんをのこして、おばけやしきの中へはいりました。
まだ、じこくがはやいので、けんぶつの人はあまりいません。
うすぐらいおばけやしきは、しいんとして、おはかのようにしずかです。
こわごわあるいていくと、せびろをきてぼうしをかぶった、六つぐらいの子どもがとびだしてきたのです。
「いらっしゃい。こちらへおいでください」
なんだか、レコードでもきいているようなこえでした。
その子どもは、はぐるまのようなおとをさせて、先にあるいていくのです。
「この子どもは、きっと、ロボットだよ」
いの上くんは、そういって子どものかおをゆびでたたいてみました。すると、コツコツとおとがしました。
ロボットなのです。
そのロボットについていくと、まっくろなまくでかこまれたへやにはいりました。
「あっ、がいこつだ」
ふわっと、一つのがいこつがあらわれて、コツコツと、ほねのおとをさせながらおどりだしました。
すると、また、もう一つもう一つと、つぎつぎにがいこつがあらわれて五つにふえてしまいました。
そして、いの上くんとポケット小ぞうのまわりを、ぐるぐるとおどりながらまわるのでした。
それは、ほんとうのがいこつではありません。つくったものなのです。でも、まっくらなところで、こんなものにであったら、だれだって、きみがわるくなります。
さあ、これからどんなことがおこるでしょうか。
ふたりは、うまく小ばやしくんをたすけることができるでしょうか。
おばけやしきへつれこまれた小ばやしくんをたすけるためにポケット小ぞうといの上くんが、おばけやしきへはいっていきました。
そとには、しょうねんたんていだんいんが、あいずのあるのをまっているのです。
小さな、子どものロボットが、ふたりを、がいこつのへやへつれていきました。
がいこつが、カタカタおどっているのです。
はじめはびっくりしましたが、そのがいこつは、あやつりにんぎょうと同じだとわかったので、ふたりは、わらっておくへすすんでいきました。
子どものロボットは、もう、ついてきません。
たけやぶのうすぐらいみちをとおっていくと、すうっと、ふたりのあたまの上に、おばけがとびついてきました。
それも、にんぎょうだとわかったので、こわくありません。
おくへすすんでいくと、いろいろなおばけがでてきましたが、ふたりは、へいきです。どんどんすすんでいくと、大きなかいぶつのくびがたけやぶの中から、にゅうっとあらわれました。
大きさは、二メートルもある、ゴリラとライオンをまぜあわせたような、大きなおばけです。
ふたりが、おもわずたちどまってみていると、そのくびが、カタカタとうごいているのにきがつきました。
「おや、へんだな。もしかしたら、この中に……」
そうおもったときです。
「わっははは」というわらいごえがして、たけやぶの中から、ぴかぴかと金いろにひかるものがあらわれました。おうごんかめんです。
「きさまたち、おれが、ビーディーバッジをみちにばらまいておいたのにだまされて、やってきたな。まっていたぞ。
さあ、いいものをみせてやる。こっちへくるんだ」
二十めんそうのおうごんかめんは、そういったかとおもうと、いの上くんにとびかかってだきかかえてしまいました。
そして、ポケット小ぞうをつかまえようとしましたが、小ぞうは、すばやくたけやぶの中へにげました。
二十めんそうは、手下をよんで、いの上くんをわたすと、ポケット小ぞうをおいかけました。
たけやぶをさがしましたが、なかなかみつかりません。
ポケット小ぞうは、りすのようにすばしっこいのです。
二十めんそうは、まごまごとあるきまわっていました。
ひょっとみると……。
むこうに、小さなやつがたっているのに、きがつきました。
そばへいってみると、それは、子どものロボットでした。
「いらっしゃい。こちらへおいでください」
ロボットは、それしかいえないのです。二十めんそうは、ちぇっとしたうちして、いってしまいました。
すると、ロボットがにやっとわらったのです。
それは、ポケット小ぞうがばけていたのです。
二十めんそうがいってしまったので、ポケット小ぞうは、かいぶつのくびのところへいそぎました。うしろへまわってみると、ドアがあり、ひらいてみると、手足をしばられた小ばやしくんが、中にたおれています。
ポケット小ぞうは、小ばやしくんのなわをといて、ふたりで、たけやぶのおくへにげました。
すると、そこには、ひろいろうかのようなところがあって、まどがついていました。
ポケット小ぞうは、まどをひらいて、あいずのふえをふこうとしました。
そとにいるだんいんにしらせるためです。
小ばやしくんは、いそいでそれをとめました。
「ぼくたちだけではあぶない。ぼくがそとへでて、中むらけいぶにでんわをかけてくる。それまで、きみはかくれていたまえ」
そういって、小ばやしくんは、そとへとびだしていきました。さあ、二十めんそうは、つかまるでしょうか。
小ばやしくんは、けいさつのたすけをたのむために、おばけやしきをぬけだしていきました。あとにのこったポケット小ぞうは、ロボットにばけたまま、また、たけやぶの中へもどり、二十めんそうをさがしました。
「あっ、いる、いる」
おうごんかめんにばけた二十めんそうが、おばけやしきのおくへあるいていくのがみえます。
ポケット小ぞうは、そっとあとをつけました。しばらくすると、みちはいきどまりになりました。
まわりが、コンクリートのかべでかこまれているのです。
二十めんそうは、そのいきどまりのみちにはいったかとおもうと、ぱっときえてしまいました。
にんじゅつをつかったのでしょうか。
いや、そんなはずはありません。
ポケット小ぞうは、そこにはいって、中のかべをしらべました。そして、かべをあっちこっちなでまわしていると、コンクリートの上に、ぽつんとでっぱったところがあり、それがぐらぐらうごくのです。
ためしに、ぐっとおしてみました。
すると、目のまえのゆかがさっとひらいて、四かくなあながでてきたではありませんか。
ちかしつへのいり口です。
二十めんそうは、ここからおりていってしまったので、きえたようにみえたのです。ポケット小ぞうは、あなの中へおりようとしましたが、ふときがついて、ビーディーバッジをみちにばらまきました。そして、あなのふたをひらいたまま、ちかしつへおりていきました。
かいだんをおりると、ドアがあります。
そっとひらいて、中をのぞきました。
「あっ」
おばけです。うじゃうじゃ、おばけがならんでいるのです。一つ目小ぞう・三つ目小ぞう、一本足の大にゅうどうや、そのほか、たくさんのゆうれいやおばけでいっぱいです。
おどろきましたが、よくみると、みんなにんぎょうです。
おばけのあいだから、へやのおくをみると、大きな木のはこのまえに、二十めんそうがたっていました。
木のはこをあけて、中から、ほそながくまいたえをだして、みているのです。
「あっ、わかった。
あれは、石むらさんのいえからぬすみだした、だいじなえだっ」
えは、みんなまいて、あのはこの中にしまってあるのにちがいない。
ポケット小ぞうは、それをみつけたうれしさに、ゆだんをして、へやの中へはいろうとしましたので、おばけがガタンとたおれました。
大いそぎでにげだしましたが、二十めんそうはきがついて、おいかけてきました。
そして、かいだんのとちゅうでつかまってしまいました。
ポケット小ぞうは、その手をはらいのけて、ちかしつへにげこみ、おばけのにんぎょうをかたっぱしからたおして、おかしなおにごっこをはじめました。
でも、とてもかないません。二十めんそうのために、とうとうおさえつけられてしまいました。
「きさま、ポケット小ぞうだな。こうしてやる」
二十めんそうのてつのようなゆびが、くびにぐいぐいとくいこんできます。
いきがつまって、いまにもしにそうです。
そのときです、ビーディーバッジのききめがあらわれました。小ばやしくんと、五人のだんいんと、五人のおまわりさんが、とびこんできたのです。さすがの二十めんそうも、こんなにおおぜいにとりかこまれては、もう、どうすることもできません。
とうとう、手じょうをはめられてしまいました。
それから、おばけやしきにいた手下も、みんなつかまってしまい、石むらさんのだいじなえも、ぶじにもどりました。
「ポケットくん、こんども、きみのおてがらだったね」
小ばやしくんが、ポケット小ぞうをほめました。
底本:「江戸川乱歩全集 第21巻 ふしぎな人」光文社文庫、光文社
2005(平成17)年3月20日初版1刷発行
底本の親本:「たのしい二年生」講談社
1959(昭和34)年10月~1960(昭和35)年3月
初出:「たのしい二年生」講談社
1959(昭和34)年10月~1960(昭和35)年3月
※底本は、連載の回数を見出しとしています。
入力:sogo
校正:北川松生
2016年3月4日作成
青空文庫作成ファイル:
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