饑餓の饗宴
ランボー
富永太郎訳



 俺のうゑよ、アヌ、アヌ、

  驢馬に乗つて 逃げろ。


俺に食気くひけが あるとしたら、

食ひたいものは、土と石。

ヂヌ、ヂヌ、ヂヌ、ヂヌ、空気を食はう、

岩を、火を、鉄を。


俺のうゑよ、廻れ、去れ。

  おんの平原!

旋花ひるがほのはしやいだ

  毒を吸へ。


貧者の砕いた 礫を啖へ、

 教会堂の 古びた石を、

 洪水の子なる 磧の石を、

 くすんだ谷に 臥てゐる麺麭パンを。


俺の饑は、黒い空気のどんづまり、

 鳴り響く蒼空!

──俺を牽くのは 胃の腑ばかり、

  それが不幸だ。


地の上に 葉が現はれた。

饐えた果実の 肉へ行かう。

うねの胸で 俺が摘むのは、

野萵苣のぢしやに菫。


 俺の饑よ、アヌ、アヌ、

 驢馬に乗つて逃げろ。

底本:「富永太郎詩集」現代詩文庫、思潮社

   1975(昭和50)年710日初版第1

   1984(昭和59)年101日第6

底本の親本:「定本富永太郎詩集」中央公論社

   1971(昭和46)年1

入力:川山隆

校正:Juki

2014年87日作成

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