(酒は誰でも酔はす)
中原中也



酒は誰でも酔はす

だがどんな傑れた詩も

字の読めない人は酔はさない

──だからといつて

酒が詩の上だなんて考へる奴あ

「生活第一芸術第二」なんて言つてろい


自然が美しいといふことは

自然がカンヴァスの上でも美しいといふことかい──

そりや経験を否定したら

インタレスチングな詩は出来まいがね

──だが

「それを以てそれを現すべからず」つて言葉を覚えとけえ


科学が個々ばかりを考へて

文学が関係ばかりを考へ過ぎる

文士よ

せち辛い世の中をみるが好いが

その中に這入つちや不可ない

底本:「新編中原中也全集 第二巻 詩」角川書店

   2001(平成13)年430日初版発行

※底本のテキストは、著者自筆稿によります。

※()付きの表題は、作品の冒頭をとって、底本編集時に与えられたものです。

※()内の編者によるルビは省略しました。

入力:村松洋一

校正:きゅうり

2019年1227日作成

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