タバコとマントの恋
中原中也



タバコとマントが恋をした

その筈だ

タバコとマントは同類で

タバコが男でマントが女だ

或時二人が身投心中したが

マントは重いが風を含み

タバコは細いが軽かつたので

崖の上から海面に

到着するまでの時間が同じだつた

神様がそれをみて

全く相対界のノーマル事件だといつて

天国でビラマイタ

二人がそれをみて

お互の幸福であつたことを知つた時

恋は永久に破れてしまつた。

底本:「新編中原中也全集 第二巻 詩」角川書店

   2001(平成13)年430日初版発行

底本の親本:「文学界 第五巻第一〇号」

   1938(昭和13)年101日発行

入力:村松洋一

校正:館野浩美

2018年425日作成

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