萩原朔太郎評論集 無からの抗争
中原中也
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萩原氏の本はよく売れるさうである。ところで萩原氏は文学的苦労人である。氏に会つてゐると何か暖いものが感じられる。だから氏の本がよく売れることは、私としても喜びである。
氏は実に誠実な人で、いつ迄経つても若々しい。一見突慳貪にも見えるけれど、実は寧ろ気が弱い迄に見解の博い人である。然るに氏のエッセイはとみると、時にダダツ子みたいに感じられる時がある。蓋し淫酒のせゐである。而してその淫酒は、氏の詩人としての孤独のせゐである。
私は何故だか萩原氏を思ふたびに、次のポオロの言葉をくちずさみたくなる。
「我は強き時弱く、弱きとき強し。」
底本:「新編中原中也全集 第四巻 評論・小説」角川書店
2003(平成15)年11月25日初版発行
底本の親本:「ふらんす」
1937(昭和12)年10月号
初出:「ふらんす」
1937(昭和12)年10月号
※()内の編者によるルビは省略しました。
※底本巻末の編者による語注は省略しました。
入力:村松洋一
校正:noriko saito
2015年2月20日作成
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