虱とるひと
LES CHERCHEUSES DE POUX
アルテュル・ランボオ
上田敏訳



むづがゆきひたひを赤めをさな

それとなき夢の白き巣立すだちをねがふ時、

爪しろがねに指細きふたりの姉は

たをやかに寢臺近く歩みよる。


青天あをぞらの光、咲き亂れたる花にそゝ

明け放ちたる窓のそばに幼兒をさなごいだき行きて

露ふりかゝるその髮の毛のなかに

うつくしく、恐ろしく又心まどはする指は動きぬ。


ふたりの息のこわごわに出入るをきけば

花の如く、草木の如きかをりして、

折節をりふしあへこゑ。口にづるを

み込みし片唾かたづおとか、接吻せつぷんの熱きねがひか。


にほひよき寂寞せきばくのなか、二人ふたりの黒きまつげ繁叩しばたゝ

えれきの通ふ細指はうつらうつらと、

あてなる爪の下にこそぷつとしらみをつぶしけれ。


時しもあれや、徒然つれ〴〵ゑひをさなき心に浮び、

狂ほしきハルモニカの吐息といきの如く

姉が靜かになづさはる其愛撫そのいたはり小休をやみなく

湧きでゝまた消えはつるせつなきおもひ

底本:「上田敏全訳詩集」岩波文庫、岩波書店

   1962(昭和37)年1216日第1刷発行

   2010(平成22)年421日第38刷改版発行

初出:「女子文壇 五ノ六」

   1909(明治42)年51

入力:川山隆

校正:岡村和彦

2012年113日作成

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