錢形平次捕物控
十手の道
野村胡堂




「親分、このお二人に訊いて下さい」

 いけぞんざいなガラツ八の八五郎が、精一杯丁寧に案内して來たのは、武家風の女が二人。

「私は加世かよと申します。肥前島原の高力左近太夫かうりきさこんだいふ樣御家中、志賀玄蕃げんば、同苗内匠たくみの母でございます。これは次男内匠の嫁、關と申します」

 六十近い品の良い老女が、身分柄も忘れて岡つ引風情の平次に丁寧な挨拶です。

 後ろにつゝましく控へたのは、二十二三の内儀、白粉も紅も拔きにして少し世帶崩しよたいくづれのした、──若くて派手ではありませんが、さすがの平次も暫らく見惚れたほどの美しい女でした。

「承はりませうか。私は町方の岡つ引きで、御武家の内證事ないしよごとに立ち入ることは出來ませんが、八五郎から聽くと、大層御氣の毒な御身分ださうで──」

 平次は靜かに老女の話をみちびきました。

 肥前島原の城主高力左近太夫高長は、かつて三河三奉行の一人、佛高力ほとけかうりきと呼ばれた河内守清長の曾孫で、島原の亂後、ぬきんでて鎭撫ちんぶの大任を命ぜられ、三萬七千石の大祿を食みましたが、『その性狂暴、奢侈しやしに長じ、非分の課役をかけて農民を苦しめ、家士を虐待ぎやくたいし、天草の特産なる鯨油げいゆを安値に買上げて暴利をむさぼり』と物の本に書き傳へてある通り、典型的な暴君で、百姓怨嗟ゑんさの的となつて居るのでした。

「伜玄蕃はそれをいさめ、主君の御憤おんいきどほりに觸れてお手討になりました。それも致し方はございませんが、今度は次男内匠の嫁、これなる關に無體のことを申し、世にあるまじき御仕打が重なります。あまりの事に我慢なり兼ね、伜に勸めて主家を退轉、明神裏に浪宅を構へ、世の成行く樣を見て居りましたところ──」

 老女は此處まで話すと、襲はれたやうに、ゴクリと固唾かたづを呑みます。

「御次男内匠樣が二三日前から行方知れずになつた──と斯う仰しやるのでせう」

 平次はもどかしさうに、八五郎から聽かされた筋を先潜りしました。

「左樣でございます。元の御朋輩衆ごほうばいしう、川上源左衞門、治太夫御兄弟にさそはれ、沖釣に行くと申して出たつきり戻りません」

「川上とやら言ふ方に、お訊ねになつたことでせうな」

「翌る日直ぐ、西久保屋敷まで參り、川上樣にお目にかゝり、根ほり葉ほり伺ひましたところ、伜は腹痛がするから歸ると言つて、船へも乘らずに、芝濱の船宿で別れたつきり、その後のことは何にも知らないといふ口上でございます」

「──」

つりに誘つて置いて、何處へ連れ出したことやら──、川上樣御兄弟は、殿の御覺えも目出度く、日頃は伜と口をきいた事もないやうな方でございます。それが、浪々の身になつた伜を誘つて、釣に行くといふのからして腑に落ちません、──大方おほかた?」

「──大方?」

「お屋敷につれ込まれて、御成敗──を」

「あれ、母上樣」

 言つてはならぬ事を言つた加世は、嫁のお關に袖を引かれて、そつと襟をかき合せます。

「日頃お憎しみの重なるせがれ、どんな事になるやら、心配でなりません。──その上、殿樣には、二三日中に江戸御發足、御歸國と承はりました。せめてその前に伜の安否だけでも知りたいと思ひ、嫁と二人、三日二た晩、夜の目も寢ずに心配いたしましたが、年寄や女では、何の思案も手段てだてもございません」

「──」

せがれ内匠たくみは、今となつて志賀家の一粒種、その命を助けたいばかりに、主家を退轉いたしました。それもみな無駄になりました」

 老女は涙こそ流して居りましたが、母性の權化の樣な、強大な意志の持主でした。主家を退轉して三萬七千石の大名に楯突たてついて迄も、志賀家の血筋を護り通さうとするのでせう。

「お屋敷へ申出でましたところで、剛直まつすぐな方は斬られしりぞけられ、殘るは辯佞べんねいの者ばかり。私風情の訴訟を、眞面目に取次いでくれる方もございません。幸ひ浪宅の家主が、八五郎殿のお知合と申すことで、不躾ぶしつけ乍らその縁にお願ひに參りました。伜が何處にどうして居りますことやら、せめてその樣子だけでも知りたうございます」

 氣丈らしい老母加世も、打ち明けて話した氣のゆるみに、疊の上に雙手もろてを突いたまゝ、ポロポロと涙をこぼすのです。

「──」

 平次は默つて腕をこまぬきました。岡つ引が飛出すにしては、少々相手が惡かつたのです。

「君御馬前に討死するとか、武士の意氣地で死ぬことなら、私は歎きも怨みもいたしません。兄玄蕃げんばを殿樣御手に掛けられた上、弟内匠まで──配偶つれあひのことで斬られるやうなことになつては、志賀家代々の御先組にも相濟みません」

 かう言ふ老女の背後うしろに、お關は消えも入りたい風情でした。三萬七千石を賭けた美しさが、どんなにやつしても隱し切れないのを、平次は世にも不思議な因縁事のやうに見て居たのです。

「私共の掛り合ふ事ぢやございませんが、お話を承はつた上は、お氣の毒で見ぬ振りもなりません。どんな事になるかは解りませんが、兎に角一應當つて見ませう。内匠樣とやらがまだ御無事でいらつしやれば、──事と次第によつちや、何とかならないこともないでせう」

 平次はツイ斯んな取返しの付かぬ事を言つてしまつたのでした。唯の二本差でさへ手の付けやうのない岡つ引風情が、大名を相手に、一體何をしようと言ふのでせう。

「それでは平次殿、お願ひ申します」

 いそ〳〵と立上がる女二人。

「何かの心得に伺つて置きますが、内匠樣、御年輩、御樣子は?」

「取つて二十七、細面ほそおもての、ひげの跡の青い、──さう〳〵、主君左近太夫樣によく似て居ると申されます」

 高力藩第一の美男──とは、さすがに母の口から言ひません。が、何かしら平次は、そんなものを感じました。



「八、大變なものを引つ張つて來やがつたな」

 女二人を路地の外に見送つて、平次は苦い顏をしました。

「さう言はずに、何とかしてやつて下さいよ、親分。志賀内匠しがたくみといふお武家は、まだ年は若いが、それはよく出來た方だ、それにあのお内儀が──」

「綺麗だから一と肌脱いでくれは厭だよ。俺はそんなさもしい料簡方は大嫌ひだ」

「そんな氣障きざなことは言やしません。綺麗なのは皮一重だが、あの内儀は心の底からの貞女だ」

「大層さとりやがつたな、八」

「へツ〳〵、先づざつと斯んなもんで」

巫山戯ふざけるなよ、馬鹿野郎。菊石あばた眇目すがめだつた日にや、貞女だつて石塔せきたふだつて、擔ぐ氣になる手前てめえぢやあるめえ」

「先づそんなところで」

「呆れた野郎だ」

 そんな事を言ひ乍らも、平次は手早く支度をして、あまり近くもない西久保へ出向きました。

 高力左近太夫は、若くて無法で、界隈でも散々の評判でした。春參府の折も、松平大膳大夫の領内防州小郡ばうしうをごほりみなとから上陸し萩城を一覽する所存で、一の坂を越え、蟹坂かにざかまでノコノコやつて行つたところを毛利の家中に發見され、生捕つて江戸表へ訴へ出、何彼の下知を待たうとひしめかれて、あわてゝ元の小郡から海へ逃出した例があります。

 その道、どんな料簡か、藝州廣島城も見る積りでしたが、淺野の家中に騷がれてこれも果さず、散々の體で江戸表へ辿たどり着いたといふ、馬鹿々々しい經驗を持つて居る左近太夫だつたのです。

 續いて今度の歸國、瀬戸内海は船で通すにしても、藝州と防州の沖を、無事には通れまい──と言つた蜚語ひご流説が、早耳のガラツ八を通して、平次の耳へも聽えて來ました。

「これは面白くなりさうだ。──相手は惡いが、一番川上何とか言ふ武家に逢つて見ようか」

 いろ〳〵の噂をかき集めて、高力左近太夫その人の概念がいねんと島原藩の空氣を呑込むと、平次は恐れる色もなく、西久保上屋敷御長屋に、用人川上源左衞門を訪ねました。

「御免下さい」

「ドーレ」

「旦那樣お出でゞございませうか。あつしは神田の平次と申して、町方の御用を承はつて居る者でございます。ちよいとお教へを願ひたいことがございますが、へエ」

 平次はさう言ひ乍ら、日頃にもないしたゝかな顏を擧げるのでした。

「何? 神田の平次だ? 町方の岡つ引などにお目にかゝる旦那ではない、歸れ〳〵」

 取次の小者は、肩肘かたひぢ張つて入口を塞ぎ乍ら、精一杯の威嚇ゐかく的な聲を出します。

「御尤もで、つてとは申しませんが、それぢや、これだけの事を申上げて下さい。此方の旦那樣と一緒に沖釣に行つた筈の、志賀内匠樣の死骸が、百本杭ぽんぐひから揚つたと──」

「何?」

「品川沖から、死骸が大川を溯上さかのぼるのは、どうも面白くないことだと申上げて下さい、ハイ、左樣なら」

「あ、これ〳〵待て」

 後ろから呼止めたのは、中年の立派な武士──多分これが主人の川上源左衞門でせう。

「へエ、へエ」

「今聞いてゐると、志賀内匠氏の死骸が、百本杭から揚つたとか言ふやうだが、それは何かの間違ひではないか」

「間違ひぢやございません。母親のお加世樣とお配偶つれあひの關樣が御覽になつて、確かに内匠樣に相違ないと仰しやるのですから」

「そんな馬鹿なツ」

 川上源左衞門は噛んで吐き出すやうでした。

「その上死骸には刀傷がございます。人にあやめられたとなると、捨置くわけには參りません」

「──」

「下手人を搜し出して、縛るのが手前共の仕事でございます」

「すると、拙者が怪しいとでも言ふのか」

 川上源左衞門は少し開き直りました。

「飛んでもない」

「なら、とつとゝ歸れ、──拙者は何にも知らぬ。町方の岡つ引風情が、武士に向つて、詮索せんさくがましい事を申すのは無禮であらう」

 ピシリと眞つ向から、一本極め付けて置いて、川上源左衞門は戸口の障子を閉め切らうとするのです。

「ちよいとお待ちを願ひます。──あつしは詮索がましい事を申すために參つたのではございませんが、志賀内匠樣は御浪人とは申せ、ついこの春までは當家の御家中で、旦那と一緒に沖釣に出かけたつきり、行方不明となつた方でございます。町方で探索の手が屆かなければ、その旨を御奉行から、大目付へ申し達し、龍の口評定所へ、改めて御家老なり御用人なりを、出頭して頂くすべもございます」

「これ〳〵何を申すのだ、馬鹿々々しい。當家を退轉した者の詮索に、目付衆を龍の口評定所までお引合に出す奴があるものか」

 川上源左衞門も少しあわてました。何か痛い尻がありさうでもあります。

「いたし方ございません、では御免」

「困つた奴だ、──俺が知つてることは何でも教へてやらう、少し落着いて話すがよい。第一、志賀内匠氏は死んでゐないのだ」

「それは本當でございますか、川上樣」

「いや、死ぬやうなことはあるまい、と言ふのだよ。芝濱しばはま高砂屋たかさごやで別れて、歸つたことは確かだが──」

 川上源左衞門は、少しあわて氣味に訂正しましたが、うつかりすべつた口は、取返しが付きません。

「死んだ筈はないと仰しやれば、唯今何處にいらつしやるのでございます」

「それは知らぬ」

「では、死んだか、生きてゐるか、御存じない筈で」

揚足あげあしを取るな、困つた奴だ」

「揚足を取るわけぢやございませんが、百本杭から揚つた死骸の始末をつけないわけには參りません」

「それは志賀内匠氏でないと言つたら、それでいゝではないか」

「その内匠樣は、何處にいらつしやるので?」

「くどいツ」

 川上源左衞門は本當に腹を立てた樣子で、平次とガラツ八を睨め廻し乍ら、後ろ手を伸して、上りがまちに置いた長いのを引寄せます。

「親分」

 八五郎は後ろからそつと平次の袖を引きました。此上からかつて居ると、どんな事になるかもわかりません。



「あれが弟の治太夫ぢだいふかい」

「大丈夫、間違へるやうな人相ぢやありません」

 平次とガラツ八は、高力家の内外の樣子を探り乍ら川上源左衞門の弟治太夫の歸りを待つて居たのでした。

「又、百本杭の死骸を持出すんでせう」

「シツ、一世一代の大嘘おほうそだ。手前てめえは神妙な顏をして引込んで居ろ」

「へエ」

 その中に近づいて來たのは、三十五六の獰猛だうまうな武家、私慾と爭氣さうきをねり固めたやうな男ですが、その代りお國侍らしい單純さも、何處かに匂ひます。

「川上樣、結構なお天氣でございます」

「お前は何だ?」

 斯う言つた治太夫の人柄でした。平次の前に立止つて、ジロジロとめるやうに睨め廻します。

「この間は品川へ釣にいらつしやいましたな。三日前、今日のやうな良い天氣でした。兄上樣と、志賀内匠樣と」

「何を言ふ」

「品川でお見かけ申しましたよ。壽屋ことぶきやで志賀内匠樣は、お腹が痛いと仰しやつて──」

「あ、あの事か、成程行つた。──確かに行つたよ、品川で舟を出さうと言ふ時、志賀氏は急に腹が痛いと言ひ出してな」

「その志賀樣の死骸が、百本杭から揚つたことを御存じでせうな」

「何と言ふ?」

「肩先を斬られて、無慙むざんな御最期でございました」

「飛んでもない、そんなわけはないぞ」

「でも、親御樣やお配偶つれあひが御覽になつて──」

 平次は又同じことをくり返すのでした。

「馬鹿なこと、志賀内匠はピンピンして居るぞ、そいつは人違ひだ」

「でも旦那」

「うるさい奴だ」

 治太夫は袖を拂つて門の中に入つてしまひました。

「親分」

「八」

 平次とガラツ八は、その後ろ姿を見送つて、何やらうなづき合ひます。

「本當に生きてゐるでせうね」

「大丈夫だ、が──、何のために誘ひ出したか、それが知りたい」

「手討にするためぢやありませんか」

「いや、それほど憎い内匠を、三日も放つて置くわけはない」

「──」

 それ以上は想像も及びません。

 平次とガラツ八は根氣よく人の噂を集め續けました。屋敷の中に、何となく不思議な緊張きんちやうのあるのは、四五日のうちに、主君左近太夫が、所領の島原へ歸る爲ばかりとは受取れなかつたのです。

 平次は其處からすぐ八丁堀へ飛んで行つて、笹野新三郎の口から町奉行を動かし、大目付にさぐりの手を入れました。

「判つたよ、八」

 平次がさう言つたのは、それから二日目。

「何が判つたんで? 親分」

「高力家の物々しい樣子が變だと思つたら、今度のお國入が大變なんだ」

「へエ──」

「この春參府の時、一と手柄を立てゝ、公儀の不評判を取繕とりつくろふ積りで、左近太夫樣は萩と廣島に上陸して、毛利まうりと淺野の居城の繩張りから防備の樣子を見、毛利と淺野の家中に騷がれたことはお前も知つてる通りだ」

「へエ──」

「そんな事は手柄にも功名にもならないが、毛利と淺野にはうんと憎まれた。今度の御歸圍も、防州藝州は無事では通られない」

「なる程ね」

「ところで高力左近太夫樣は今年二十七、細面でひげあと青々あを〳〵とした、一寸良い男だ」

「へエ──」

「志賀内匠といふお武家は、殿樣によく似て居ると──外ならぬ母親が言つたのを手前てめえ覺えてゐるだらうな」

「へエ──」

「謎は解けたらう。志賀内匠はなぜ行方不知ゆくへしれずになつたか」

「へエ──」

「まだ判らないのかい」

「へエ──」

「呆れた野郎だ。それで十手捕繩をお預りしちや濟むめえ」

「へエ」

「高力左近太夫樣が、高力左近太夫樣で道中をしては、毛利と淺野の家來につけ狙はれて危ないが、參覲交代の大名が、逃げも隱れもするわけに行かねえ」

「成程ね」

「そこで、殿樣に似てゐる志賀内匠をおびき出し、おどかしたか、なだめたか、兎に角殿樣の身代りになつて本街道を島原へ練らせ、眞物の左近太夫樣は、お忍びで、藏宿の船か何かで、そつと歸らうと言ふだ」

「讀めたツ、──それにちげえねえ、親分」

「今頃讀めたつて自慢にはならねえ」

「太てえ殿樣野郎だ。これから踏込んで、三萬七千石の家中を引つくり返し、人身御供ひとみごくうに上がる志賀内匠といふお武家を救ひ出して來ませう。親分」

 ガラツ八は本當に、三萬七千石の大名を向うに廻して、一と汗掻く氣で居るのでせう。拳固げんこに息をかけたり、腕をさすつたり、懷の十手を取出したり、一生懸命の姿でした。

「大層な勢ひだが、向うへ乘込んで何うする積りだ」

「殿樣──と言ひてえが、用人か家老の首根つこを抑へて、志賀内匠樣を救ひ出す」

「證據があるかい」

「──?」

「志賀内匠といふ方が、釣等つりなどに行かなかつたといふ證據があるかい──その上西久保の屋敷に隱されてゐるといふ──」

「親分」

 ガラツ八は助け舟の欲しさうな顏でした。

「川上源左衞門と治太夫の口が違ふ、それが何よりの證據だ。源左衞門は芝濱の高砂たかさごで別れたと言つたが、治太夫は此方のわなに乘つて、品川の壽屋ことぶきやで別れたと言つた」

「成アる」

「まだあるが、言ふと手前が飛出しさうにするから、預かつて置かう、──志賀内匠といふ方の命には別條あるまい、もう少し樣子を見るがいゝ」

「へエ──」

 相手は大名、平次もこれ以上は手の下だしやうがありません。暫らく見ぬふりをしてゐるうちに、志賀内匠は、高力左近太夫の身代りになつて、九州島原まで、危險な旅に上ることでせう。



 その日の夕刻、志賀内匠たくみの妻のお關は、今度はたつた一人で平次の家へ訪ねて來ました。

「このやうなものが參りました。御覽下さいまし」

 差出したのは、半切はんせつをキリキリと疊んだ手紙、文面は、

拙者は無事でさるところに隱れてゐる、母上樣は何彼とお氣をまれることであらうが、そもじの力で、よく理解の行くやうに、お慰め申上げてくれ。又逢ふ折はあるかないか解らぬが、萬一用事のある節は、西久保上御屋敷門番左五兵衞に頼むがよい。但し、母上には申上げぬ方がよからうと思ふ。私が死んだと思ひ誤つて、氣を揉む樣子だから、無理の都合をして、この手紙を屆ける、云々

 斯んな事が、達者な手で細々と書いてあつたのです。

「これは、間違ひもなく、内匠樣御筆跡ごひつせきでせうな」

「確かに、主人の書いたものでございます」

 お關はうなづきます。

「主家を退轉なすつたのは、御主人樣のお心持で?」

「いえ、母上樣の思召しでございました。兄上玄蕃樣御手討になつた上は、退しりぞいて志賀家の跡を斷やさないのが祖先への孝行と申しまして」

「成程、内匠樣はそのおつもりでなかつたと仰しやる」

「ハイ」

 母性の本能と、臣節との矛盾むじゆんに、母の加世と、夫の内匠がどんなに爭つたことでせう。さう言ひ乍らも、お關は美しい顏を曇らせました。

 ガラツ八はその間にも、横の方から首を伸べ加減かげんに、お關の美しさを滿喫して居ります。巨大な眞珠しんじゆに美人像をきざんで、その中に靈の焔を點じたら、或はこんな見事なものが出來るかも知れません。愛も情熱も、叡智えいちの羽二重に押し包んで、冷たく靜かに取りなしたら、これに似た美しい人形が出來るでせうか。

 それも併し、此上もなく質朴しつぼくで地味な單衣に包んで、化粧さへも忘れた、お關の底光りのする美しさには比ぶべくもありません。

 高力左近太夫が、三萬七千石と釣替にし兼ねまじきお關の美しさ、ガラツ八が物も言はずに眺め入つたのも無理のないことでした。

「何も彼も、内匠樣御承知の上ではこんだことでせう。暫らく樣子を見るといたしませうか」

「ハイ」

 お關は悲しさうでした。が、夫内匠の意志でしたことゝ判つては、どうすることも出來ません。

 暫らく經つて、淋しく歸つて行くお關の姿を、平次の女房のお靜までが見送つたのです。

「お氣の毒な、──何とかして上げられないものでせうか」

 お靜は睫毛まつげを濡らして居りました。

「武家方のすることは、こちとらにや解られえ、まア〳〵放つて置くことだ」

「でも、親分」

 八五郎は膝を乘出します。

手前てめえの顏は、お内儀へ喰ひ付きさうだつたぜ、──高力左近樣より、手近にもつと怖い狂犬やまいねが居ると言つてやりたかつたが、止したよ」

「親分」

「まて、腹を立てるな、女の顏を、穴のあくほど見る奴の方が惡いんだから」

 平次は何も彼も忘れてしまつたやうに、ブラリと町内の錢湯へ行つて來て、珍らしくお靜に一本つけさせました。さすがに十手も捕繩も及ばない世界に踏込んで、拔差しならぬムシヤクシヤした心を持扱つたのでせう。

 その晩。

「平次殿、嫁は見えませんでしたか」

 あわてた姿で飛込んで來たのは、志賀内匠の母親加世でした。

「夕刻ちよいと見えましたが、──どうかしましたか」

「夕方一度出て歸つて、それから、夕食後にまた出かけましたが──」

「はて?」

「何か使走りの男が、手紙のやうなものを持つて來たやうですが、それを見ると急にソワソワして、私の言葉もうはそらに飛出してしまひました」

「それは何刻頃のことで?」

酉刻半むつはん少し廻つた時分と思ひますが」

「──」

 平次は眉をひそめましたや。酉刻半に來た手紙といふと、夕刻平次に見せたのとは違ふ筈です。

「どうしたことでございませう、萬一嫁の身の上にまで」

 加世は自分の胸を抱くのです。武家の年寄らしくない、飾りつ氣のない愛憎あいぞうを、平次はこの老女から感ずるのでした。

「兎も角、斯うしちや居られない、行つて見ませう」

「何處へ? 親分」

「當てはないが──多分西久保の邊だらうよ」

 老女をお靜に預けたまゝ、平次とガラツ八は、初夏の江戸の街を、一氣に西久保へ飛びました。



 翌る日の朝、何の獲物もなく八丁堀まで引揚げた平次は(目黒川に若い女の死骸が浮いた、──若くて滅法めつぽふ綺麗な女だが、首を半分斬られて、茣蓙ござで包まれてゐる──)と聽くと、もう一度八五郎をうながして、目黒まで驅け付けたのです。

「これは大變な彌次馬だ」

 目黒川の土手を眞黒に埋めた人垣を見ると、平次の義憤は燃え上がります。若くて綺麗な女の死骸と聞くと、猫も杓子しやくしも飛び出したのでせう。

「退いた〳〵、見世物ぢやねえ、そんなものを見ると、たゝられるぞ、畜生ツ」

 八五郎が大聲でわめき乍ら、追ひ散らす人垣の中を、一と目、

「あツ」

 平次は仰天しました。

 さんとして降りそゝぐ五月の陽の下、土手の若草の上におつ轉がされたのは、眞つ白な美女の肉體、振り亂した髮をかき上げてやる迄もなく、死もまた奪ふことの出來ない拔群ばつぐんの美しさは、昨夜神田の家を飛出した筈の、志賀内匠の妻お關の淺ましい姿でなくて誰でせう。

「親分」

「矢張り、思つた通りだ」

 平次は死骸の裾口すそぐちや胸を直してやり乍ら、片手拜みの手をそのまゝ指して、八五郎の驚く顏を迎へます。

「あ、お内儀。何てことをしやがるんだらう」

 ガラツ八も眼をしばたゝきました。美しい人の死は、あまりにも殘酷で、二目とは見られません。

「錢形の親分、この佛樣を知つて居なさるのかい」

 横合から顏を出したのは、土地の御用聞、目黒の與吉といふ中年者でした。

「知つて居るどころぢやねえ、昨夜から行方を探して居たのさ。神田明神樣裏の、志賀内匠しがたくみといふ浪人のお内儀だ」

「へエ──ひどい事になつたものだね、いづれは情事いろごとの怨だらう、──だから美い女には生れたくないな」

 與吉はさう言つて、死骸の首のあたりを指すのです。

 美女の頸筋くびすぢは後ろから、二太刀三太刀斬られて居りますが、刄物がなまくらなのか、腕がにぶいのか、到頭切り落し兼ねたまゝで、その上不思議なことに兩掌りやうてをしかと、胸の上に組み合せて居るではありませんか。

「念の入つた下手人だね、殺した上に合掌までさせて」

 與吉はその死骸の合せた掌を指します。

「死んでから組ませては、斯うつめが喰ひ入るほど固くはなるまい。──生きてるうちに、覺悟の掌を合せて首を切られたのだらう」

 平次は死骸の指に觸つて、首を垂れました。

「覺悟の上といふと?」

 與吉の不審にも構はず、平次は尚ほも、帶の間、袂の中、前も、後ろも念入りに見ましたが、紙片一つ持つては居ません。

「親分、大變なものに包んであるんだね」

 ガラツ八は、死骸を包んだ茣蓙ござに氣が付きました。

備後表びんごおもてだ」

 荒筵あらむしろでもあることか、死骸を包んだのは眞新しい備後表、縛つた繩は、荷造用のたくましい麻繩です。

「解るか、八」

「へエ──」

「覺悟の上のお手討だ。家來の腕利きにやらせたのでない證據は、この切口の亂暴な樣子で解るだらう。据物斬すゑものぎりの腕がなきや人間の首は切れねえ」

「──」

「奧座敷か奧庭で斬つたから、荒筵でもこもでもない、大納戸おほなんどにでも入つて居る疊表に包み、荷造の麻繩で縛つて、不淨門ふじやうもんから持出させたのさ」

「──」

「殿樣の無體の折檻せつかん、女は言ふ事を聽かずに死んだ──可哀想に」

 平次はもう一度美女の死骸に首を垂れるのです。

「でも、西久保から此處までぢや大變ですぜ、親分」

「此處にお下屋敷があるだらう、訊いて見な」

「な──る」

 ガラツ八は横手を打つと直ぐ飛出しました。目黒の與吉は、何が何やら解らない樣子で、ぼんやり二人の話を聽いて居りましたが、氣が付くと沽券こけんかゝはると思つたものか、

「寄るな〳〵、見せ物ぢやねえ」

 急に彌次馬の方へ向いて精一杯の鹽辛聲を張上げます。



 門番の左五兵衞を呼出すのに一ト骨を折つた上、その口を開かせるのに、老母加世は、たくはへの半分を投出さなければなりませんでした。

「一と目、たつた一と目、伜に逢はせて下さい。この望が叶つた上は、其場でこの私の命を取つても怨みません」

 加世の歎きは深刻でした。

「それぢや斯うしませう。志賀樣には御先代から並々ならぬお世話になつた私です。その御恩返しのつもりで、お長屋の格子へ、今夜子刻こゝのつを合圖に、内匠樣にお顏だけでも出すやうに申しませう」

「有難う、御恩にます」

 加世はそれを聞くと、手を合せて、門番を拜むのでした。

「お長屋の窓は、門から數へて右へ四つ目、九つの増上寺の鐘が合圖でございますよ」

 格子をへだてゝ、──母子の最後の別れになるかも知れませんが、それでも、母親に取つては、せめてもの慰めでした。

 約束の子刻こゝのつ──。

 加世は平次と八五郎に伴れられて、西久保高力家上屋敷の門の外に忍び寄りました。

 明日は殿樣江戸表出立といふ騷ぎ、邸内は宵までごつた返して、亥刻よつ半頃からは、その反動でピタリとしづまります。夜廻りの通つたのは正九つ、その跫音あしおとが遠退くのを合圖のやうに、お長屋の四番目の窓の障子が、内から靜かに開きました。

「お、内匠」

「母上」

 二人は飛付きました。が、黒塗くろぬりの巖乘な格子をへだてた上、格子の外には四尺あまりの溝があつて、それより先へは進むこともなりません。

「殿樣の身代りになつて、危ない旅に出られると言ふのは、それは、嘘だらうね、内匠」

「いえ、母上」

「そのやうな事は、この母が許しません。高力家を退轉したお前に、何の義理がありませう、それはなりませんよ」

 加世は溝も越え、格子も突破つて、ならう事なら、伜を此處から引出したい樣子ですが、内匠はその氣組を避けるやうに、心持格子から離れました。

「母上、お家を退轉したのは、私の本心ではございません。何と申しても、高力家は、三代相恩の御主」

「いえ〳〵三代相恩でも、兄玄蕃が手討てうちになり、嫁の關まで殺されました」

「えツ」

「この上の義理立ては祖先への不孝になります。さア、歸りませう。此處から出られないと言ふなら、私が表門から乘込んで、御家老、御用人に申上げ、お前をつれて歸ります」

「それはなりません、母上」

 志賀内匠は、薄暗い格子の内に、灯にそむいたまゝ、頑として頭を振るのです。

「志賀樣、──御免下さい。あつしは神田の平次といふ者ですが、少しはお母樣の身にもなつて上げて下さい」

 平次はたまり兼ねて飛出しました。

「何を言ふ、お前は私の知らぬ人だ」

「この方は、今の私には杖柱つゑはしらのやうな方です。お前が此處に居ることを突止めて下すつたのも、嫁のお關が手討になつたと見極めて下すつたのも、皆んなこの平次殿──」

「お手討?」

 志賀内匠の姿はさすがに顫へました。

「申しませう、志賀樣、斯う言ふわけでございます」

 平次は乘出しました。二度目の僞手紙でお關をおびき出し、目黒の下屋敷につれ込んだ高力左近は、恩人にして臣下、今はしかも自分の身代りにならうと言ふ志賀内匠の妻お關に、無體の戀慕を仕掛け、貞烈なお關の峻拒しゆんきよに逢つて、首を三太刀まで切つた上、茣蓙ござに包んで目黒川に流した始末を、平次は手に取る如く語り聞かせたのです。

「元の主君と言つても、あまりと言へば無法な仕打ち、この上の義理立ては天にそむきます。まして、公儀の目をかすめ、御法を破つて、參覲交代に身代りを使ふとあつては、誰が何と言つても、此の私が默つて見ちや居られません。さア、直ぐ歸りませう。お母樣のお供をして、奧州松前の果に暮したら、高力家の手も屆くことぢやございません。──それとも、其處へ閉ぢ籠められて、出られないとでも仰しやるなら」

「いや、出られる、私は縛られも、閉ぢ籠められも何うもしてゐない、が」

「それでは、内匠樣」

 平次は四尺の溝を飛越し、格子に雙手もろてを掛けて説き進むのです。

 あかりに反いた内匠の顏は、心持少し蒼くは見えますが、決然たる辭色じしよくは、それにも拘らず、寸毫すんがうの搖ぎもありません。

「平次とやら、お前の言ふことはよく判つた。母上や妻のために、それほどまでに骨を折つてくれて、辱けない。禮を言ふぞ」

「──」

 志賀内匠は首を垂れました。泌々しみ〴〵とした調子に引入れられるともなく、平次も思はず固唾かたづを呑んで鋭鋒えいほうをゆるめます。

「だが、な、平次とやら、よく聽いてくれ、妻には妻の道がある。主君といへども、無體のことを聽いては、人の妻の道が立つまい。關が死んだのは、妻の道を全うするためだ。不憫ふびんではあるが、生きて耻辱ちじよくかうむるより、この私に取つても、どれほど嬉しいことか判らない、──かたじけないぞ」

 内匠は格子に縋るやうに、宙に向つて頭を垂れるのでした。目黒川に無慙な死骸を浮べた貞烈な美女のために、夫の最上の感謝を捧げるのでせう。

「だが、平次」

 内匠は暫らく默祷の後に續けました。

「志賀家の血統を護らうとする、有難い母上の思召、──これは世の母の最上の途とでも申さうか」

「──」

 加世は道に崩折れて、涙におぼれるやうに泣き濡れて居りました。波打つ老女の背中を、八五郎の朴訥ぼくとつな平手が怖々おづ〳〵擦つて居るのもあはれです。

「家來には家來の道がある。君君たらずとも、臣臣たるの道を盡すのが武士の意氣地だ。まして三代相恩の高力左近太夫樣、今必死の大難に遭はれるのを、臣たる者が、素知らぬ顏で居られようか」

「──」

「安穩に生き永らへるより、忠節に死ぬのが武士の本望だ。──逃げる道も、歸る道もあるが、進んで殿樣御身代りとなり、毛利まうり、淺野の家中が刄を磨ぎ澄まして居る中に飛込むのは、この内匠の望みだ」

「──」

「痩せ我慢と言つてもよい、身勝手と言はれても構はぬ、──母上樣にはお氣の毒だが、この私が、武士らしく死ぬのを、せめてもの御自慢に遊ばして下さい。この心掛は皆、亡き父上始め、兄上、母上樣に教へて頂きました」

「──」

「關一人をせつに死なせて、私がノメノメと逃げてなるでせうか、母上樣」

 誰もこたへるものはありません。平次も、八五郎も泣いて居りました。遲い月が屋根を離れて、五月の街をおぼろに照して居ります。

「よく解りました。妻には妻の道、母には母の道、臣下には臣下の道、成程仰しやる通りで、主君を見離せと申した、この平次は馬鹿でございました」

「解つてくれたか、平次」

「この上は止め立てをいたしません。行つていらつしやい。立派に身代りのお役目を果して下さい。はゞかりながらお母樣はこの平次がお世話いたしませう」

かたじけない、──そればかりが氣がかりであつた」

 内匠の眼は輝やきました。思はず擧げた母の顏、朧月おぼろづきの中に、伜のそれとピタリと合つたのです。

「母上、隨分お達者で」

「伜」

 二人は手を取り合ふことも叶はず、涙にかすむ眼を拭ふのが精一杯でした。

「志賀樣、──妻の道、母の道、臣の道の外に、十手の道のあることも覺えて置いて下さい」

 平次は變なことを言ひ出したのです。

「──」

「私はお上の御用を承はるものです。お母樣は引受けましたが、高力左近太夫樣は引受けません」

「何?」

 謎のやうな言葉を殘して、平次はたつた一人、おぼろの中に姿を消してしまひました。

 不思議なことに、高力左近太夫に化けた、志賀内匠は、陸路何のさはりもなく、廣島の城下も、萩の城下も、大手を振つて通り拔け、夏の中旬なかば頃には、本國の島原に着いて居りました。が、その代り、眞物ほんものの高力左近太夫高長は、翌年二月、江戸上屋敷にひそんでゐるところを大目付に發見され、豫々かね〴〵所領の仕置宜しからずとあつて、三萬七千石を沒收、身柄は仙臺藩に預けられ、その子二人僅かに形ばかりの跡目を繼ぐことになつたのです。

 志賀内匠は表面お手討といふ事で、實は主君の身代りになつたのですが、主家沒落と共に江戸に馳せ歸り、平次に預けた母親を引取つて孝養を盡した事は言ふ迄もありません。

        ×      ×      ×

 暫らく經つてから、──

「志賀内匠といふ人が、殿樣の身代りになつて、行列を組んで中國筋を通つた癖に、無事に島原へ着いたわけは、どうも俺には解らねえ」

 八五郎がキナ臭い顏をすると、平次はニヤニヤし乍ら、斯う言ふのです。

「岡つ引には十手の道があると言つたぢやないか、俺はその晩、毛利と淺野のお屋敷に驅け込み、かねて顏見知りの御用人を呼出して、高力左近樣の國入は、眞つ赤な僞物にせものの蔭武者だから、下手に手を出して、耻を掻かないやうにと教へてやつたんだ」

「へエ──」

 八五郎も開いた口が塞がりません。

「高力家の沒落ぼつらくは?」

「そいつは知らねえ。大名の内輪のことまで、町方の御用聞が懸合かゝりあつて居られるものか」

 平次の斯う言ふのは本當でせう。この事件がなくとも、高力家の沒落は、止めやうのない勢ひだつたのです。

「それにしても、あのお關さんといふお内儀は綺麗だつたね」

「あんまり綺麗過ぎて魔がさしたんだよ、女房は汚い方が無事でいゝな、八」

 平次はさう言ひ乍ら、チラリとお勝手で働いて居るお靜を振り返りました。これも汚いどころか、少し綺麗過ぎる方の口です。

底本:「錢形平次捕物全集第九卷 幻の民五郎」同光社磯部書房

   1953(昭和28)年720日発行

初出:「オール讀物」文藝春秋社

   1938(昭和13)年7月号

※題名「錢形平次捕物控」は、底本にはありませんが、一般に認識されている題名として、補いました。

入力:特定非営利活動法人はるかぜ

校正:門田裕志

2014年39日作成

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