錢形平次捕物控
花見の留守
野村胡堂
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「親分、向島は見頃ださうですね」
ガラツ八の八五郎は、縁側からニジり上がりました。庭一杯の春の陽ざし、平次の軒にもこの頃は鶯が來て鳴くのです。
「さうだつてね、握り拳の花見なんかは腹を立てゝ歸るだけだから、お前に誘はれても附き合はねえつもりだが──」
平次は相變らず世上の春を、貧乏臭く眺めて居るのでせう。
「へツ、不景氣ですね、錢形の親分ともあらうものが、──。駒形の佐渡屋が、三日に一度でも、七日に一度でも宜い、錢形の親分が見廻つてくれたら、用心棒代と言つちや惡いが、ほんの煙草錢だけでも出しませうと、執こく持込んだのも斷つたでせう」
「馬鹿なことを言へ。金持の用心棒になる位なら、俺は十手捕繩を返上して、女房に駄菓子でも賣らせるよ。向島へ誘ひ出さうといふのも佐渡屋に誘はれたのぢやないか。あすこには結構な寮がある筈だが」
「呆れたものだ」
「俺の方が餘つ程呆れるよ。そんなに向島が眺めたかつたら、縁側に昇つて背伸して見ろ、梁に顎を引つかけると、丑寅の方にポーツと櫻が見える──」
「冗談言つちやいけません。いくら背伸したつて、明神下から向島が見えますか」
「見えなきや諦めろ、ロクロツ首に生れつかなかつたのが、お前の不運だ」
「有難い仕合せで」
額を平手で叩いて舌をペロリと出し乍らも八五郎は諦めてしまひました。此上セガむと平次は花見の入費に女房の身の皮を剥ぎかねないのです。正月からの交際や仕事の上の諸入費で、親分の平次が首も廻らないことを、八五郎はよく知つてゐたのです。
それでも諦め兼ねたものか八五郎は、良いお天氣に誘はれて、フラフラと向島に行つたのも無理のないことでした。
駒形の地主で佐渡屋平左衞門、實は八五郎に旨を含めて、その日向島諏訪明神裏の寮に花見といふことにして錢形平次をつれ込み、一杯御馳走した上で、平次に頼み度い用事があつたのですが、金持ちに誘はれてノコノコ呑みに出かける平次でもなく、うまく持ちかけた八五郎の誘ひもはぐらかされて、仕樣ことなしに、八五郎一人だけ、佐渡屋の寮に面目次第もない顏を持込んだわけです。
「まア〳〵宜い、八五郎親分も氣になさることは無い。餘計な細工をして、堅いので通つた錢形の親分を、おびき出さうとしたのが惡かつたよ。まア〳〵花でも見乍ら、ゆつくり呑んで行つて下さい」
佐渡屋平左衞門は、まことによくわかつた旦那でした。その頃の大通の一人で、金があつて智慧があつて、男前が立派で、よく氣がつくのですから、誠に申分の無い人柄でした。
「ところで、親分に御相談といふのは、どんなことでせう。あつしでは役に立ちませんか。花を眺めて、御馳走になりつ放しぢや、氣になりますね」
寺島村の田圃から、遠く櫻の土手を見晴らした南座敷に、佐渡屋平左衞門と八五郎は相對しました。この時主人の平左衞門は四十前後、色の淺黒い、燻したやうな澁い感じで、態度の落着いて居るのは、その信心のせゐだと言はれて居りました。
一方、相手の八五郎はかなり醉が廻つて居りました。本人はその積りは無くとも、なんとなく絡んだ調子になります。
「飛んでも無い。八五郎親分で役に立たないなんて、そんなわけぢやありませんよ。あんまり馬鹿々々しい話で、ツイ言ひ出し兼ねて居るんで」
「へエ、それは又變ですね。話にならないほどのつまらない事で、錢形の親分を、用心棒に雇はうと──」
「錢形の親分を用心棒などと、そんな大それた望みはもちません──月に二兩の煙草代と申したのは、私が惡うございました。實はね、八五郎親分」
「へエ、へエ」
「この私は、命を狙はれて居るやうな氣がしてならないのです」
「命を、ね。誰がまた、そんなものを?」
八五郎も少し眞劍になりました。命を狙ふといふのは、容易ならぬことです。
「それがわかれば、手輕に防ぎもつきますが、全く見當がつかないのに、間違ひもなく私の命が狙はれて居るんだから、こいつは手のつけやうがありません。錢形の親分のやうな方でも相談相手になつて下さらなきや──」
明かに、八五郎は甘く見られたわけですが、本人はそんな氣にもならないほど、もうお酒が廻つて居りました。
「すると、旦那のやうな良い人を怨んでゐる者もあるわけで?──」
「怨んでゐる者ばかりが、命を狙ふとは限りません。私を羨やむ者、私が生きてゐると邪魔になるもの、世の中には、いろ〳〵の敵があると思はなきやなりません」
「例へば?」
「駒形の私の店の隣は、丹波屋の淺吉さん、地境のことから公事(訴訟)になつて、私と私の弟の伯次をうんと怨んで居ります。義理の弟の伯次は、公事師見たいなことが大好きで」
「それぢや、相手はわかつて居るぢやありませんか」
「いや、なか〳〵以つて、丹波屋さんは頑固で始末は惡いが、人間は立派な人で、間違つたことなどをする人ではありません」
「すると?」
「女房のお榮も、召使のお房のことで、私を怨んでゐないとは言ひ切れません」
江戸の大通ともあらうものが、召使にチヨツカイを出して内儀にうんと油を絞られてゐることでせう。
「それだけで?」
「まだあります。手代の駒三郎は、これは遠縁の者ですが、私の娘のお春と一緒になり度いと言ひ出し、親類の者に頼んで執こく言つて來ましたが、身持がよくない上に、娘の婿といふのは、佐渡屋の跡取を狙つてのことで、腹が見え透いてゐるから、手ひどくはねつけました。娘のお春は十六ですが、男つ振りの良い駒三郎が、夢中になるやうなきりやうぢやございません」
「成程ね」
「まだありますよ。弟の伯次だつて、私には義理のある仲で、隨分よくしてやつて居る積りでも、何彼と不足もあるでせう。怨めば怨むわけで」
斯う聽くと、有徳人の佐渡屋平左衞門も、全く八方敵の中に居るわけです。
「で、どんなことがあつたんで?」
「さア、これぞと申すほどのことはありませんが、何となく無氣味で、夜中に寢首を掻かれはしないか、三度の食事の中に、毒でも入つてはゐないかと、氣の安まる隙もありません」
「へエ、そいつはどうも、手のつけやうがありませんね」
八五郎もさすがに匙を投げてしまひました。
八五郎が、向島の寮から歸ると、向柳原の自分の宿の前を素通りに、明神下の錢形平次の家へやつて來ました。
「親分、今日は」
「今日はぢやないぜ。今日はこれで二度目だ。花はどうだつたえ、向島の景氣は?」
平次は相變らずの無精煙草に暮れて、自分の塒を動きもしなかつた樣子です。
「へエ、あつしが向島へ行つたのをよく御存じで?」
「縁側で背伸をすると、土手を歩いてゐるお前の姿がよく見えたよ、──若い娘と摺れ違ふたんびに、一々振り返つて、惚々と眺めるのだけは止せよ。見つともないからな」
「冗談ぢやありませんよ。明神下の縁側から向島が見えるわけが無いぢやありませんか」
「ハツハツハツ、むきになるなよ。お前の髷節は埃だらけで、襟には新しい妻楊枝が刺してあるし、まだ少し酒の氣が殘つてゐるやうだ。向島で飮んだ證據だらけぢやないか」
「叶はねえな、親分」
八五郎は長んがい顎を撫で廻しました。
「ところで、向島の土産があるだらう。俺を誘ひ出した樣子は唯事ぢや無かつたが──」
平次はもう八五郎の細工も、大方呑込んで居る樣子です。
「お察しの通り、佐渡屋平左衞門の寮に誘はれましたよ。誰も盜み聽きなんかして居ない、八方見晴らしの田圃の中で、折入つての話がして見たいと」
「田圃の中の密談は變つて居るな、駒形の家は、そんなに物騷なのか」
「金があり過ぎて、女を拵へ過ぎるから、世間の人間は皆んな、自分の命を狙つて居るやうに見えるんですね」
「あれ、お前もなか〳〵洒落れたことを言ふぜ。何時の間に、そんなに利巧になつたんだ」
「利巧はあつしの地ですよ」
「そいつは知らなかつたが」
「馬鹿は附け燒刄で、──死んだお袋はさう言ひましたよ。馬鹿見たいに見えるのと、大飯を食ふのがお前の取得だと」
「その吹聽は、いづれ春永に伺ふとして、向島の話はどうした」
「それつ切りですよ。兎も角、一度本人に逢つて見て下さい。明日は佐渡屋の家中が總出の花見で、駒形から船を出すんですつて。いづれ夕方は白鬚あたりに着けて、諏訪明神樣裏の寮で一と騷ぎするでせうが、その日だけは、主人の平左衞門が、小僧の伊佐松とたつた二人で駒形の店に留守番をするんだ相で、錢形の親分を誘つて來て下されば、ゆつくりお話を申上げ度いといふことで──」
「御免蒙らうよ。──金や女があり過ぎて、殺れさうな氣がする人間なんか、俺は附き合ひ度くないよ、──さう言つてやるが宜い。百迄も生き度いと思ふなら、出家遁世でもするが宜いとな。それがイヤなら、妾に暇をやつて、一家一族の者に、身上を半分もわけてやるが宜いとな。劍難、火難、水難、女難、盜難、立ちどころに消滅するよ」
「あつしなんか、貧乏で醜男に生れついたばかりに、熨斗をつけてやると言つても、命のもらひ手がねえ」
「それもこれも、親のお蔭だと思へ」
平次と八五郎の無駄は際限もありませんが、佐渡屋を覆ふ災厄は、その間にも熟れ切つて居たのです。
その翌る日の晝過ぎ、午刻半(午後一時)少し前でした。八五郎が駒形のあたりを見張らせて置いた下つ引が、明神下の平次の家へ、おでこで梶を取り乍ら、轉げるやうにスツ飛んで來たのです。
「親分、佐渡屋が、佐渡屋の旦那がやられましたよ」
「何? 佐渡屋の旦那が」
平次も八五郎も、事件を少し甘く見過ぎたことに氣がつきました。佐渡屋の主人平左衞門が豫想したやうに、事件はまさに最惡の状態に立ち到つたわけです。
二人は直ぐさま駒形へ驅けつけました。その時は、花見船を出した家族は、たつた一人も戻つては居りませんでした。折から花は眞つ盛り、日和は上々、向島の土手の上は人間で盛りこぼれ相で、川面は遊山船で一杯、小僧の一人や二人が向島へ駈け出したところで、花見船を見付けることなどは思ひも寄りません。
その上困つたことに、斯んな時には一番役に立つ筈の、出入の鳶の者、植木屋の親方までが、花見船に乘込んで居り、夕方までは飮み通す筈で、陽のあるうちは岸につけ相も無かつたのです。
駒形の佐渡屋は、町役人や近所の衆、お義理だけに集まつて、ワイワイして居るだけ、其處へ驅けつけた錢形平次の顏を見て、ホツとしたのも無理のないことでした。
佐渡屋平左衞門は、大地主の大金持で、土地の旦那衆で立てられて居りましたが、場所柄だけに、家はそんなに廣くはなく、二階建の下の居間の隣、六疊の佛間で、手に水晶の珠數を掛けたまゝ、朱に染んで死んで居りました。
傷は背中から一箇所、槍でゑぐつたか、刀で突いたか、得物が無いのでわかりませんが、左肩胛骨の下を、心の臟へかけての深い傷で、何樣凄まじい血潮です。
不斷着らしい、紬の袷、前のめりになつて、佛壇は開いたまゝ、──その佛壇は駒込町の往來に背を向けて、六疊一パイにはめ込みになつた豪勢なもの、拜んだ姿勢が、佛の在す、西の國を鑚仰するやうになつて居ります。
佛間の前は廊下、廊下を距てゝ、義弟の伯次の住んでゐる二た間の家、元より一家の構の中ですが、これは兄の平左衞門と違つて船が好きで、殺生が好きで、窓からすぐ大川に飛出せるやう、東向の部屋に陣取つて、春の麗かさを滿喫して居ります。
尤も、住んでゐる筈の當人、平左衞門の義弟伯次は、花見船なんか馬鹿々々しいと言ひ出して、諏訪明神裏の寮へ行つて、近所の小川でタナゴか何んかを釣つて留守。
小僧の伊佐松といふのが一人、平次の前に引出されてオドオドして居りました。
「小僧さんか。──お前が旦那と二人で留守をして居たんだね。少しも怖がることは無いよ。後先のことを、出來るだけ詳しく話してくれ」
平次に訊かれて、伊佐松はボツボツ話しました。年は十六、もう中僧と言つて宜いほどの柄だが、身體の方に發育を奪られてしまつて、智慧の方の廻りは、あまりよく無ささうです。一家總出の花見に、主人と二人留守をさせられるだけのことはあるでせう。
「皆んな巳刻半(十一時)には出かけましたよ。殘つたのは旦那とおいらだけで、旦那の弟御の伯次さんは、花見なんか馬鹿々々しいから、竹屋の渡しで舟から降ろしてもらひ、寺島の寮へ行つて、寮の近所の小川で釣でもするとか言つて居ました」
「皆んなが、確かに船に乘つたのを、お前は見屆けたことだらうな」
「見ましたよ、船が棧橋を離れる前から、三味線太鼓で、それはもう、大變な騷ぎでした」
「よくお前は默つて留守番をしたことだな」
「主人の言ひ付けだから、仕方ありませんよ。尤も、その代り旦那に一分貰ひました」
「そいつは大した褒美ぢやないか。それからどうした?」
「晝の仕度にかゝつたのは、それから間もなく、花見辨當があるから、お茶をわかせばよかつたんで、お勝手へ行つて仕度をして居ると、旦那はいつもの通り、お佛壇の前で、お經が始まりました。それはまた長いんです」
「フーム?」
「四半刻も經つた頃、淺草寺の晝の鐘が鳴りました。ど、どーんと」
「何んだえ、それは?」
「鐵砲の音のやうでした。驚いて音のした方へ飛んで行くと、川の方へ向いた部屋は煙硝の匂で、お佛壇の前には、旦那がこんな具合に」
「倒れて居たといふのか。──何んにも言はなかつたのか」
「何んにも言はなかつたやうです。直ぐ死んでしまつたんですもの」
「待て〳〵、少し見て置き度い」
平次は小僧の伊佐松をそのまゝにして置いて、廊下の先を覗いて見ました。廊下を距てゝ其處はもう、義弟の伯次の部屋で、よく片付いて居り、窓から顏を出すと、鼻の先が大川の水、丁度花時の眞晝の引汐で、底が見えるほどよく澄んで居ります。隅田川がドブのやうに濁つた今日とは違つて、いろ〳〵の物語に殘つて居るやうに、その頃は思ひの外の綺麗な川だつたのです。
「あれは何んだ」
「お隣の家ですよ」
「此方を覗いて居るのは?」
「御主人の丹波屋淺吉さんで、──花見船に誘つても、ツムジを曲げて來ませんでした」
小僧は何心なく説明するのです。これも佐渡屋平左衞門の恐れて居た一人と、八五郎から聽いて居るので、平次は變な心持になります。
「鐵砲で撃つたとすると、隣のあの窓から丁度狙ひ頃ですね」
八五郎はもうきめてかゝります。
「川の中からだつて撃てるよ。尤も船から撃てば、煙硝の煙は川へ散つて、家の中までは大して匂はないだらうが」
「おい〳〵伊佐松どん」
「へエ〳〵」
平次に呼ばれて、小僧はキヨトンとしました。名ある御用聞にどん扱ひにされて、少し面喰らつた樣子です。
「その鐵砲の音の聽える前か後に、誰も家の中へ入つた者も、家から出た者も無かつたのか」
「そんなものはありません。旦那は用心深いから、表も裏も念入りに閉めて、家中皆んな留守のことにし、窓だけ開けて置きました」
「家の外から廻つて窓へ潜り込む工夫は無いか」
「此邊は家と家の間は狹いし、木戸は念入りに閉めてあるし、そんな譯には行きませんよ」
「すると、矢つ張り」
平次は考へ込みました。鐵砲は川から撃ち込んだので無ければ、隣から撃つたことになります。
「隣の主人を調べて見ませうか」
八五郎は隣の主人の人相の惡さが、氣になつてならない樣子です。
「へエ、私は丹波屋の淺吉で、何んか御用で御座いますか」
八五郎につれて來られたのは、五十前後の喰へさうも無い爺でした。
「佐渡屋の主人は殺されて居るんだぜ。隣に住んで居るお前さんが、『何んか御用で御座いますか』は御挨拶だらう」
「へ、どうも相濟みません。騷ぎがあるとは訊きましたが、日頃の仲が仲ですから、へエ、見舞も悔みもいたしません」
「日頃の仲が仲とは、どういふわけだ」
平次も此男の相手をして居るのが、少し苦々しくなりました。
「地境のモメ事が公事騷ぎになつて、それから隣同士は口もきゝません。三年にもなりますかなア、朝夕顏を見合せ乍ら、挨拶もしないのは、變なもので御座いますよ」
丹波屋淺吉は、こんな馬鹿なことを言ふのです。
「傷口の具合や煙硝の匂ひなどから、佐渡屋の主人は鐵砲で撃たれたらしいんだ。隣に住んで居るお前に、それがわからなかつた筈はあるまい」
「大きな音のしたことはわかつて居ります。佐渡屋の主人が信心氣狂ひで、長い經をあげて居りましたが、あれが朝夕耳について、仲違ひの切つかけはあのお經ですよ。私とは宗旨違ひで、宗論から地境の揉めごとになつたやうなもので」
「で?」
「そのお經の眞つ最中、いきなりドカンと來ましたよ。何事かと思つて窓を開けて見ると──窓は閉めて居ましたとも。隣の見える窓なんか、間違つても開けて置くものですか。すると、プーンと煙硝の匂ひがして、そこいらに人の姿なんか見えやしません。川には近くに船も居なかつたやうで」
「向う川岸から撃つたんぢやありませんか。親分」
八五郎はまた飛んでもないことを言ふのです。
「馬鹿野郎、向う川岸から鐵砲の玉は屆くかも知れないが、煙硝の匂ひは屆くものか」
「成程ね」
などと感服する八五郎です。
「八、こいつは俺達だけぢや手に了へないよ。この近所に、蘭法の良いお醫者は居ないのか」
「何をやるんです。いくら蘭法でも、鐵砲で撃ち殺されたものは生き返りませんよ」
「そんな馬鹿なことを考へて居るわけぢやない。下手人は鐵砲を何處から撃つたか、それが知り度いんだ。どんな彈丸が、どう拔けたか」
「へエ、腑分けをする積りで? 驚きましたね、──兎も角搜して見ませう。馬道に蘭法の醫者があると聽きましたが」
それは言ふまでもなく蘭學事始めから百何十年も前のこと、筋の通つた蘭法醫などがある筈も無いのですが、それでも長崎には和蘭人が居り、從つて蘭法らしいものも日本には芽生えて居たわけです。
「それぢや、私は御免を蒙ります」
隣の丹波屋淺吉は、二人の話の間何やらモジモジして居りましたが、掛り合ひになるのを逃げるやうに、コソコソと自分の家へ戻つて行きます。
「親分、あの男を放つて置いて構ひませんか。人相の好くねえ老爺ですが」
「放つて置け、此家の主人が佛壇の前に坐つて居るのを、隣の窓から撃てば壁へ穴があく筈だ」
「成る程ね」
「それより俺は、花見船を嫌つて、釣に行つたといふ義弟の伯次が餘つ程怪しいと思ふよ。そつと他の船で引返す手もあるぢやないか」
「へエ、そんな事もあり相ですね」
義弟の伯次が、兄を羨ましがつて居たことは確かですから、そつと違つた小舟で引返して、窓の下に漕ぎ寄せて鐵砲で兄を撃てないことも無いわけです。
「尤も、川の中は花見船で一パイだから、その中を掻きわけて漕ぎ寄せ、自分の家へ鐵砲を撃ち込めるかどうか、こいつは六つかしい藝當だが──」
平次は、自分の築き上げた疑ひを、自分から、又突き崩して居ります。
この中へ、花見船は、急を聽いて歸つて來ました。乘組んでゐたのは、佐渡屋平左衞門の女房お榮、娘のお春、下女のお吉、鳶頭に植木屋の親方、御近所の衆などで、居なければならぬ筈の妾のお房と、手代の駒三郎は姿を見せません。
騷ぎは大變でした。その中を泳ぐやうに、平次と八五郎はいろ〳〵の情報を集めます。
先づ手代の駒三郎と、妾のお房の姿の見えないのを指摘すると、
「お房さんは船に弱いから、土を踏ませてくれと、竹屋の渡しで下りました。駒三郎さんは、本所に用事があるとかで中の郷でもう陸へ上つてしまひました。どうせ、お二人は相談づくでせうよ」
下女のお吉は呑込んだことを言ふのです。
「それはどういふわけだ」
平次が突つ込むと、それを待ち構へたやうに、
「お孃さんがモノにならないと見ると、もう、お房さんへちよつ介を出す駒どんですからね」
と、自分が相手にされない事などは棚にあげて口惜しがるのです。
「弟の伯次も竹屋で船からおりた相ぢやないか」
「伯次さんは諏訪樣の裏の寮に、晝過ぎまで居りましたが、こんな時は雜魚を相手の方が宜いとか何んとか浮世離れのしたことを言つて、瓢箪をブラさげて、釣竿を持つて出て行きましたよ。それつきり戻りませんが」
それは寺島村の諏訪明神裏の寮へ走らせた使の者と一緒に來た、寮の留守番の爺、喜八といふのが應へました。
「本當に晝過ぎまで寮に居たのか」
平次の答へは緊張して居ります。
「間違ひありませんよ。川向うの淺草寺の晝の鐘が聽えると、縁側で指を折つて勘定し乍ら、──『爺や、ありや九つだね、これから裏の流れでタナゴでも釣つて來るから、晩の肴は要らないよ』などと冗談を言ひ乍ら出て行きました」
それが本當なら、義弟の伯次は全く兄殺しの下手人から除外されるわけです。
「伯次さんは酒が好きかえ」
「大して強くもないくせに、呑まずに居られなかつたんですね。あれが本當の酒好きで、御主人が隱して置く、灘から取寄せたといふ生一本の銘酒や、オランダ渡りの赤い酒などを、くすねて呑んでは文句を言はれて居ましたよ。金を出して近所の酒屋から取寄せる酒ぢや氣に入らなかつた樣子で、へツ、へツ」
喜八はニヤニヤするのです。
「惡い癖があつたものだな」
「惡い癖でしたよ。女と酒は盜むに限るなんて、大つぴらに言ふものですから、旦那のお氣に入らなかつたやうで」
恐らくこれも、妾のお房と因縁のある話でせう。佐渡屋をめぐる情事と、罪惡と、因縁とは、思ひの外の深刻なものがありさうです。
そんな調べに沒頭してゐる時でした。
向島から急の使が、佐渡屋の騷ぎの中へ飛込んだのです。
「大變なことになりました。旦那樣の御舍弟の伯次さんが、寮の近所の流れの岸で死んで居りました」
それは寺島の百姓で、佐渡屋の寮に出入りする男です。
「どうしたといふのだ。詳しく話してくれ」
平次もさすがに膽をつぶしました。
「近所の子供が見付けて大騷ぎになつたんです。綾瀬川寄りの三尺ほどの流れの岸で、釣竿を抱いたまゝ死んでゐるのです」
「兎も角も行つて見よう。こいつは思ひも寄らぬことばかりだ。八は此處に殘つて、調べ殘したことを、ザツと調べて置いてくれ」
「どんなことをやらかしや宜いでせう」
此期に臨んでも、たより無い八五郎です。
「二三人下つ引を出して、妾のお房と手代の駒三郎を搜すんだ。二人は出合茶屋か何んかに潜つて、一緒に居るに違ひないが、丁度眞晝の時分、二人共何處に居たか、よく訊くんだ」
「それから蘭法の醫者が來たら、傷の中にもぐつて居る彈丸を取出して貰つて、撃ち込まれた彈丸の方角を調べてくれ、右から撃つたか、左から撃つたか、眞つ直ぐか」
「へエ」
「それから、此家に細工事のうまい人間は居ないか。花火細工の好きな人間は居ないか、煙草を好きなのは誰か、主人の外に信心に凝つて居るのは誰か」
「そんな事を訊いて、何んの役に立つでせう親分」
「お前には解らなくたつて宜い」
この時二人の話を聽いて、寮の番人の喜八が顏を出しました。
「私が申上げても構ひませんか。私は去年の暮まで、駒形の此家の方に奉公して居りましたので、大概のことは知つて居りますが」
「あ、お前さんで宜いとも、先づ」
「細工事の上手は伯次さんで御座いますよ。花火の道樂も伯次さんで、昔は花火が好きで、花火屋に居候をして居たこともある相です」
「それから」
「煙草好きも伯次さんで、花魁の道具のやうな、長い煙管を好きで、夏煙管とか言つて自慢にして居りましたが、灰皿が燒けるほど煙草を吸つても、少しも熱くならないのが自慢だ相で、その邊にも確か、二尺も長い羅宇をすげた煙管が、一本や二本はありませう」
「細工事の方は何をやつたんだ」
「伯次さんは彫物細工は大した腕でございましたよ。それから信心の方は存じませんが、旦那の信心氣狂ひを、伯次さんは苦々しがつて居りましたが──あれで極樂へ行く氣だから呆れるつて」
「でも、良い線香の屑が落ちて居るやうだが──」
「それは旦那のでございます。白檀とか沈香とかの入つた、長い〳〵カンカンの線香がお好きで、半刻も燻つて居ると御自慢にして居ました」
「伯次さんの部屋の窓際にも、その線香の灰見たいなものがこぼれて居るやうだが」
「そんな事もありますでせう。線香の灰は風が吹けば飛びますから」
「さう言つたものかな」
平次は併し、寮番の喜八爺の説明で、大體は堪能した樣子です。
寮番喜八と一緒に向島へ行つた平次は、案内の百姓に導かれて、綾瀬川寄りの流れの岸に向ひました。
藪の深いところ、流れを挾んで一パイの人だかりですが、土地の御用聞が、兎も角それを追拂つて檢死を待つて居ります。
「錢形の親分だ、──退け〳〵」
そんな騷ぎの中、萠え始めたばかりの草の上、藪を背負つて、虚空をつかんで居る死骸を見て、平次も息を呑みました。三十七八でせうか、滑かな顏、整つた目鼻立ち、なか〳〵の良い男ですが、苦悶に歪んで、恐ろしい惡相です。
噛み締めた口の隅、血泡を吹いて居るのや、紫色に變つた顏から喉を見ると、間違ひもなく猛毒にやられたものでせう。田圃の中の流れの岸で、たつた一人で毒死して居るとすれば、その原因は、側に轉がつて居る、見事な瓢箪の中味の外はありません。
平次はそれを取上げて、中を覗いて見ましたが、よく呑み干して一滴も殘つては居ず、懷ろ紙を出して、その上へ瓢箪を逆樣にすると、僅かに一滴、二滴、紙の上に血のやうに滴るものがあります。
「この赤い酒に見覺えがあるか」
平次は顧みて、寮番の喜八に訊ねました。
「へエ、よく存じて居ります。和蘭の葡萄で作つた酒だ相で、三十年も五十年も經つたものだと申します。主人はことの外それが好物で、長崎や堺から、大金を出して取寄せて居りました。まことに黄金の汁のやうに貴いものだと申すことで御座います」
「この人もそれが好きだつたわけか」
「伯次さんと來ては、日本一の珍らし物好きで、駒形の御店でも、時々それを盜んで呑んでは主人に叱られて居りました」
話はそれでわかつたやうですが、平次は尚も伯次の死骸を調べ、土地の役人に引繼いで、爺やを案内に、諏訪樣の裏の寮に引返しました。
其處は、小さい寮ですが、なか〳〵よく調つて居り、贅澤さもまた非凡です。
一應調度に眼を通して、さて喜八に言つて主人の戸棚を開けさせました。
「これが主人のお好みの道具、此方は誰にも手をつけさせないお酒で」
道具は他愛の無いものでしたが、金持の道樂の馬鹿々々しさよりも、人一人の命を取つた、和蘭の赤い酒が平次には大事でした。
ギヤーマンの瓶に入つた、赤黒い酒、透して見ると、まだ半分は殘つて居るでせう。
「これは調べて見たい、持つて行くよ」
「へエ〳〵、どうぞ」
平次はその瓶を、風呂敷を借りて包ませ、駒形まで持つて歸り、鐵砲傷を調べに來て貰ふ筈の蘭法の醫者に見せる外はあるまいと思つたのです。
駒形の佐渡屋へ歸ると、八五郎の怒鳴る聲が、往來までも響き渡ります。
「やい、この野郎、主人兄弟が死んだといふのに、奉公人が二人でつながつて、變な宿に隱れてふざけて居るとは何んといふ不心得だ。主人を鐵砲で撃つたのも、お前達二人の馴合仕事に違ひあるまい。さア白状しやがれツ」
などと、八五郎の調べは論理も常識も飛躍します。
「親分、そんな、そんな馬鹿なことをするものですか。二人が相談づくで、花見船を脱け出し、兩國の出合茶屋へ入つたことは、惡う御座いましたが、主人を殺すなんて、飛んでもない」
「それぢや、丁度、淺草寺の晝の鐘が鳴つた時、お前達は何處に居た。出合茶屋へ入つたのは、二人別々、それも晝は過ぎて居たといふぢやないか」
「二人はブラブラ歩いて居りました。竹屋の渡しで船をおりて、それから兩國まで、話し乍ら歩いて居ると、四半刻はかゝりますよ」
「太え野郎だ。主人の持物なんかと道行をしやがつて、人殺しの疑ひ位は天罰だと思へツ」
どうも八五郎の論告には、平次でさへも腑に落ちないものがあります。
「八、もう宜い」
「あ、親分──この二人が餘つ程變ですよ」
と突きつけたのは、良い男の手代駒三郎と、これも良い女の妾のお房の、取亂した姿でした。
「その變なのを何處で見付けたんだ」
「東兩國の出合茶屋ですよ。土地の下つ引が嗅ぎつけて、デレデレして居るのを、しよつ引いて來ましたが」
「殺生なことをしやがる。尤も、主人兄弟は死んで居るんだから、その裝ぢや葬ひの仕度もなるまい。お前にとつちめられたのは、飛んだ罪亡しかも知れまいよ、──ところで、蘭法のお醫者はどうした」
「それなら、奧に居ますよ。馬道の惠齋先生と言つて」
「よし」
平次は奧へ通ると、若い蘭法醫の惠齋先生は、仕事をすませて、死骸を取片付けて居りました。
「おや、錢形の親分だ相で、──お頼みだけのことはしましたよ。腑分けと言つた大袈裟なことは出來ないが、幸ひ彈丸の代りに撃ち込んだ、細い鏨が、胸の近くまで脱けかけて居たので、すぐ搜り當てゝ取出して置きました。これですよ」
惠齋先生は、懷紙の上に置いた長さ二寸ばかり、太さ煙管の吸口ほどの鋼鐵の鏨を押し出して見せるのです。
「これが?」
平次もさすがに、兇器の變つて居るのに驚きました。
「これは細かい金物の細工をする時使ふもので、これを彈丸の代りに撃ち込めば、煙硝が弱いと人間の身體を撃ち拔く筈は無い。うまい人殺し道具を考へたもので」
解剖などといふことの行はれなかつた昔、人間の體内に撃ち込んだ兇器は、そのまゝ死骸と共に大地の下に埋められて、永久に解る筈は無いと思つたのは恐るべき惡智慧です。
「それに、鉛の丸い彈丸と違つて、先の尖つた鏨を撃ち込むと、傷口が開かないから、一寸見ては鐵砲傷とわからない。錢形の親分はよくこれが鐵砲傷と氣がつきましたね」
「煙硝の匂がひどかつたと聽いたもので、──ところで、彈丸は何方から撃ち込んだものです。右ですか、それとも左ですか」
「いや、眞つ直ぐの方角でしたよ。下からでもなく、上から撃ちおろしたのでもなく、右でも左でもなく、丁度あの隣の部屋の海の見える窓のあたりから」
「すると、船の中から上へ向けて撃つたのでもありませんね」
「その通りで」
「いや、先生、それで、何も彼もわかつたやうな氣がいたします」
「いや、さすがは錢形の親分、大したことで。實は私も、こんな事が好きで〳〵たまらない。差支が無かつたら、佐渡屋の御主人を鐵砲で撃ち殺した下手人は誰か、教へては下さらぬか」
「申しませう。隨分、イヤな事ですが、人間といふものは、斯んなにも恐ろしいものか、それを知つて置くのも、惡いことでは無いでせう」
平次は靜かに引受けました。そして八五郎と下つ引達に、家中の者を、皆んな此處へ呼び寄せ、主人平左衞門の死骸を前に、話し始めたのです。
春の夕陽が川一杯に流れて、絃歌の聲が遠波のやうに大氣をゆるがします。歡樂極まつて、哀愁を生ずると言つた、花と酒とに疲れ果てた、不思議な江戸の一角でした。
「此家には、金があり過ぎた。女も多過ぎた。皆んな主人を怨んで居た。隣の人も、奉公人達も内儀までも」
「──」
平次はさう言つて、一同を見廻したのです。
「ことに、弟の伯次は、この家の身上の、半分は自分のモノだと思ひ、内儀のお榮さんも、順當に行けば、自分の女房になる人であつたと思つて居たことだらう。主人平左衞門さへ死ねば、この身上も内儀も今でも自分のモノになると思ひ込み、何年も何年も工夫を凝らして、主人の命を狙つた。主人が誰かに命を狙はれて居ると脅えて居たのも無理のないことだ」
「──」
「でも、主人を殺して直ぐ自分が縛られては何んにもならない。幸ひ主人を怨む者はうんとある。──そこで、長い羅宇に紐を卷いて、花火筒の手輕なものゝやうな鐵砲をつくり、中へ煙硝を詰めて、鏨を鉛玉の代りに撃ち出すことを考へた。──火皿などは要らない。火藥を塗した觀世撚を、小さい穴へ差し込めば宜い、その先へ長くて丈夫で品の良い線香を立てた。線香は時刻を測つて丁度半刻(一時間)で煙硝の口火に燃えつくやうにし、それを川の見える窓側に置き、筒先を佛壇の眞ん中に向けて、自分は花見船に乘つて出かけた」
「成る程ね」
八五郎は思はず感歎の聲をあげました。
「狙ひは定めてある。寸毫の狂ひは無い。主人は信心に夢中で、線香の匂ひなどは氣にもしない。長い經が始まつた。丁度潮時、眞晝の鐘が鳴る頃、羅宇の鐵砲は鏨の玉を撃ち出し、主人は背中から撃たれて即死してしまつた」
「その羅宇の鐵砲を誰が何處へ隱したんでせう、親分」
八五郎は四方をキヨロキヨロ見廻しました。
「引き汐だよ」
「?」
「鐵砲には反動がある。鏨を撃ち出した羅宇は、恐ろしい勢で後の方へハネ返ると、そのまゝ窓の外の川に落ちた。羅宇は輕くて丈夫にするため、多分蝋を引いた麻紐を卷いてあつたことだらう。そのまゝ引汐に乘つて、俺達が窓から覗いた頃は品川の海へ流れて行つたに違ひあるまい」
「あツ、成る程、考へやがつたな」
「これは、幾度も〳〵試した上の仕事で萬に一つ間違ひなく仕組んだに違ひあるまい。たつた一つの手掛りは、窓の敷居の上に、少しではあつたが、線香の灰が殘つて居たことだ」
「その兄殺しの伯次の野郎が」
「待て〳〵八、先を急いではいけない、伯次は自分の仕掛けた惡事の恐ろしさに、花見船などに乘つて浮かれて居る氣になれなかつた。そこで向島の寮へ行つて、近所の流れに釣れても釣れなくても構はない釣に行つた」
「あの赤い酒は?」
「兄の平左衞門は、弟の酒を盜む惡い癖を知つて居た。それに、弟が自分の命を狙つて居ることも知つて居た。弟が邪魔になつて仕樣が無いので、一か八かで、秘藏の和蘭渡りの赤い酒に、手に入れた南蠻物の毒を入れて置いた。──さうでせうね、惠齋先生」
「まさにその通り、この赤い酒の中には、香も匂ひも何んにも無い、恐ろしい毒が入つて居る──多分昇汞といふものだらうと思ふが」
惠齋先生は感歎の首を振り乍ら言ふのです。
「それに違ひありません。──これであつしの調べは濟みました。恐ろしいことでしたよ。兄を殺したのは弟、その弟を殺したのは兄、時刻も同じだ。あつしは道學の先生ぢやないが、人を呪はゞ穴二つとはよく言つたものですね」
平次はしよんぼりと立上りました。そして八五郎を促し立てゝ、このドロリと淀んだ罪毒の淵から、大急ぎで飛出してしまつたのです。
明神前の家へ歸つて、女房のお靜の酌で、無駄を言ひ〳〵、せめては八五郎と差向ひで、一合を半分づつ呑むのを樂しみに。
底本:「錢形平次捕物全集第五卷 蝉丸の香爐」同光社磯部書房
1953(昭和28)年5月25日発行
1953(昭和28)年6月20日再版発行
初出:「オール讀物」文藝春秋新社
1953(昭和28)年3月号
※題名「錢形平次捕物控」は、底本にはありませんが、一般に認識されている題名として、補いました。
入力:特定非営利活動法人はるかぜ
校正:門田裕志
2015年4月6日作成
2017年3月4日修正
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