抒情小曲集
萩原朔太郎



 私にとつて限りなくなつかしく思はれるは、この集にをさめられた室生の抒情小曲である。彼の過去に発表したすべての詩篇の中で、此等の抒情詩ほど、正直ないぢらしい感情にみちてゐるものはない。それは実に透明な青味を帯びた、美しい貝のやうな詩である。そしてそのリズムは、過去に現はれた日本語の抒情詩の、どれにも発見することのできない珍しい鋭どさをもつて居る。そしてこの詩集は、北原兄の『思ひ出』以後における日本唯一の美しい抒情小曲集である。かういふ種類の芸術では、これ以上のすぐれたものを求めることは、今後とも容易にあるまいと思つてゐる。

萩原朔太郎

底本:「抒情小曲集・愛の詩集」講談社文芸文庫、講談社

   1995(平成7)年1110日第1刷発行

底本の親本:「抒情小曲集」感情詩社

   1918(大正7)年9

初出:「抒情小曲集」感情詩社

   1918(大正7)年9

入力:田村和義

校正:高柳典子

2013年131日作成

2013年1025日修正

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