南京陷落の日に
萩原朔太郎


歳まさに暮れんとして

兵士の銃劍は白く光れり。

軍旅の暦は夏秋をすぎ

ゆうべ上海を拔いて百千キロ。

わが行軍の日は憩はず

人馬先に爭ひ走りて

輜重は泥濘の道に續けり。

ああこの曠野に戰ふもの

ちかつて皆生歸を期せず

鐵兜きて日に燒けたり。


天寒く日は凍り

歳まさに暮れんとして

南京ここに陷落す。

あげよ我等の日章旗

人みな愁眉をひらくの時

わが戰勝を決定して

よろしく萬歳を祝ふべし。

よろしく萬歳を叫ぶべし。

底本:「萩原朔太郎全集 第三卷」筑摩書房

   1977(昭和52)年530日初版第1刷発行

   1986(昭和62)年1210日補訂版第1刷発行

入力:kompass

校正:小林繁雄

2011年625日作成

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