萩原朔太郎


鶉や鷓鴣の飛びゆくかなたに

ふたたび白堊の城は現はれ 風のやうに消えてしまつた。

人夫よ はやく夏草を刈りつくせ

狼火をあげよ 烟を空にたなびかせよ

空想の陣幕を野邊にはつて

まぼろしの宴樂をほしいままにせよ。

ああこのばうばうたる白日の野邊を訪ねて行つても

むかしの失はれた幸福に出逢ひはしない。

大風の吹く城の向うで

化猫草の穗のゆらゆらとうごいてゐて

なにものか

かなしい追憶の敵が笑つてゐる。

底本:「萩原朔太郎全集 第三卷」筑摩書房

   1977(昭和52)年530日初版第1刷発行

   1986(昭和62)年1210日補訂版第1刷発行

入力:kompass

校正:小林繁雄

2011年625日作成

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