眺望する
萩原朔太郎



すべては黒く凍つてゐる

さびしくかたまる岩の上に

みじめに歪んだ松の幹に

景色は凍え、飢ゑ、まづしく光つて叫ぶばかり。


この侘しく灰色なる空の下に

私たちの心はまづしく語り 孤獨になやみて重たくよりそふ

少女よ

あの遠い空の雷鳴をあなたは聽くか

かしこの空にひるがへる

浪浪の高いひびきをあなたは聽くか。


過去よ

ながいながい孤獨の影よ

その影を岩にひきずる

冬の日の薄暗い濱邊に立つて

意味のふかい人生を見る。

底本:「萩原朔太郎全集 第三卷」筑摩書房

   1977(昭和52)年530日初版第1刷発行

   1986(昭和62)年1210日補訂版第1刷発行

入力:kompass

校正:小林繁雄

2011年625日作成

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