絶望の足
萩原朔太郎



魚のやうに空氣をもとめて、

よつぱらつて町をあるいてゐる私の足です、

東京市中の掘割から浮びあがるところの足です、

さびしき足、

さびしき足、

よろよろと道に倒れる人足の足、

それよりももつと甚だしくよごれた絶望の足、

あらゆるものをうしなひ、

あらゆる幸福のまぼろしをたづねて、

東京市中を徘徊するよひどれの足、

よごれはてたる病氣の足、

さびしい人格の足、

ひとりものの異性に飢ゑたる足、

よつぱらつて堀ばたをあるく足、

ああ、こころの中になにをもとめんとて、

かくもみづからをはづかしむる日なるか、

よろよろとしてもたるる電信柱、

はげしきすすりなきをこらへるこころ、

ああ、ながく道路に倒れむとする絶望の足です。

底本:「萩原朔太郎全集 第三卷」筑摩書房

   1977(昭和52)年530日初版第1刷発行

   1986(昭和62)年1210日補訂版第1刷発行

入力:kompass

校正:小林繁雄

2011年625日作成

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