ぎたる彈くひと
萩原朔太郎


ぎたる彈く、

ぎたる彈く、

ひとりしおもへば、

たそがれは音なくあゆみ、

石造の都會、

またその上を走る汽車、電車のたぐひ、

それら音なくして過ぎゆくごとし、

わが愛のごときも永遠の歩行をやめず、

ゆくもかへるも、

やさしくなみだにうるみ、

ひとびとの瞳は街路にとぢらる。

ああ いのちの孤獨、

われより出でて徘徊し、

歩道に種を蒔きてゆく、

種を蒔くひと、

みづを撒くひと、

光るしやつぽのひと、そのこども、

しぬびあるきのたそがれに、

眼もおよばぬ東京の、

いはんかたなきはるけさおぼえ、

ぎたる彈く、

ぎたる彈く。

底本:「萩原朔太郎全集 第三卷」筑摩書房

   1977(昭和52)年530日初版第1刷発行

   1986(昭和62)年1210日補訂版第1刷発行

入力:kompass

校正:小林繁雄

2011年625日作成

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