磨かれたる金屬の手
萩原朔太郎



手はえれき

手はぷらちな

手はらうまちずむのいたみ、

手は樹心に光り、

魚に光り、

墓石に光り、

手はあきらかに光る、

ゆくところ、

すでに肢體をはなれ、

炎炎灼熱し狂氣し、

指ひらき啓示さるるところの、

手は宙宇にありて光る、

光る金屬の我れの手くび、

するどく磨かれ、

われのをめしひ、

われの肉をやぶり、

われの骨をきずつくにより、

恐るべし恐るべし、

手は白き疾患のらぢうむ

ゆびいたみ烈しくなり、

われひそかに針をのむ。

底本:「萩原朔太郎全集 第三卷」筑摩書房

   1977(昭和52)年530日初版第1刷発行

   1986(昭和62)年1210日補訂版第1刷発行

入力:kompass

校正:小林繁雄

2011年625日作成

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