光る風景
萩原朔太郎



青ざめしわれの淫樂われの肉、

感傷の指の銀のするどさよ、

それ、ひるも偏狂の谷に涙をながし、

よるは裸形に螢を點じ、

しきりに哀しみいたみて、

をみなをさいなみきずつくのわれ、

ああ、われの肉われをして、

かくもかくも炎天にいぢらしく泳がしむるの日。

みよ空にまぼろしの島うかびて、

樹木いつさいに峯にかがやき、

憂愁の瀑ながれもやまず、

われけふのおとろへし手を伸べ、

しきりに齒がみをなし、

光る無禮ぶらいの風景をにくむ。

ああ汝の肖像、

われらおよばぬ至上にあり、

金屬の中にそが性の祕密はかくさる、

よしわれ祈らば、

よしやきみを殺さんとても、

つねにねがはくば、

われが樂欲の墓場をうかがふなかれ、

手はましろき死體にのび、

光る風景のそがひにかくる。

ああ、われのみの、

われのみの聖なる遊戲、

知るひととてもありやなしや、

怒れば足深空に跳り、

その靴もきらめききらめき、

涙のみくちなはのごとく地をはしる。

底本:「萩原朔太郎全集 第三卷」筑摩書房

   1977(昭和52)年530日初版第1刷発行

   1986(昭和62)年1210日補訂版第1刷発行

入力:kompass

校正:小林繁雄

2011年625日作成

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