決鬪
萩原朔太郎



そらつちとに緑はうまる、

緑をふみてわが行くところ、

靴は光る魚ともなり、

よろこび樹蔭におよぎ、

手に輕き薄刃やいばはさげられたり。


ああ、するどき薄刃やいばをさげ、

左手をもつて敵手かたきに揖す、

はや東雲しののめあくる楢の林に、

小鳥うたうたひ、

きよらにわれの血はながれ、

ましろき朝餉をうみなむとす。


みよ我がてぶくろのうへにしも、

愛のくちづけあざやかなれども、

いまはやみどりはみどりを生み、

わがたましひは芽ばえ光をかんず、

すでに伸長し、

つるぎをぬきておごりたかぶるのわれ、

をさな兒の怒り昇天し、

烈しくして空氣をやぶらんとす、

土地つちより生るる敵手のまへ、

わが肉の歡喜よろこびふるへ、

感傷のひとみ、あざやかに空にひらかる。


ああ、いまするどく鋭刃やいばを合せ、

手はしろがねとなり、

われの額きずつき、

劍術は青らみつひにらじうむとなる。

底本:「萩原朔太郎全集 第三卷」筑摩書房

   1977(昭和52)年530日初版第1刷発行

   1986(昭和62)年1210日補訂版第1刷発行

入力:kompass

校正:小林繁雄

2011年625日作成

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