若き尼たちの歩む路
萩原朔太郎



この列をなす少女らのため、

うるはしき都會の窓ぞひらかるる、

みよいまし遠望の海は鳴りいで、

なめいしを皿はすべりて、

さかづきは歩道にこぼれふんすゐす。

こはよき朝のめざめなり、

をとめらのさんたまりやの祈祷なり、

みな少女、

素足あしなみそろへ行く手に、

ちよこれいと銀紙に卷かれ、

くだものは竝木の柵に飾られぬ。

ああ、いづこぞ夢の序樂のぽろねえず

會社は河岸に涙をひたし、

花店の飾窓つゆにぬれたり、

しばしまたつりがね鳴らむ、

あさまだきにほふ葉影に、

しろじろとかざし泳がせ、

この列をなす少女らあゆむ。

──樂曲風、情景詩──

底本:「萩原朔太郎全集 第三卷」筑摩書房

   1977(昭和52)年530日初版第1刷発行

   1986(昭和62)年1210日補訂版第1刷発行

入力:kompass

校正:小林繁雄

2011年625日作成

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