立秋
──大沼竹太郎氏ニ捧グル詩──
萩原朔太郎



遠く行く君が手に、

胡弓の箱はおもからむ。

きのふ山より摘みてかへれば、

紫苑はなしぼみて、

すでに秋の愁ひをさそふ。

友よ、

やさしく胡弓を摩り、

遠くよりしも光を送れ。

ああ、わが故郷にあるの日、

終日ひねもす怒りうゑを感じ、

手を高く蒼天のうへに伸ぶ。

─一九一四、八、十四─

底本:「萩原朔太郎全集 第三卷」筑摩書房

   1977(昭和52)年530日初版第1刷発行

   1986(昭和62)年1210日補訂版第1刷発行

入力:kompass

校正:小林繁雄

2011年625日作成

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