幼き妹に
萩原朔太郎



いもうとよ、

そのいぢらしき顏をあげ。

みよ兄は手に水桃みづももをささげもち、

いつさんにきみがかたへにしたひよる、

この東京の日くれどき、

兄の戀魚は青らみてゆきて、

日毎にいたみしたたり、

いまいきもたえだえ、

あい子よ、

ふたり哀しき日のしたに、

ひとしれず草木さうもくの種を研ぐとても、

さびしきはげに我等の素脚ならずや。

ああいとけなきおんみよ。

─一九一四、五、三─

底本:「萩原朔太郎全集 第三卷」筑摩書房

   1977(昭和52)年530日初版第1刷発行

   1986(昭和62)年1210日補訂版第1刷発行

入力:kompass

校正:小林繁雄

2011年625日作成

青空文庫作成ファイル:

このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。