浮名
萩原朔太郎
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浮名をいとはば舟にのれ、
舟はながれゆく、
いま櫓櫂の音を絶え、
風も雨も晴れしあけぼのに、
よしあしぐさのみだるる渚をすぎ、
舟はすいすいと流れゆくなり。
ああ舟にのりて行かば、
くるほしきなみの亂れもここちよく、
ちのみごの夜びえする、
あやしきこゑもきかであるべきに、
ふるとせひとにかくれて、
わがはぐくみしいろぐさのはや涸れぬとぞ、
けふきけば薄葉に涙しをるる、
よしゑやし、
悲しきものはあだがたき、君ならなくに、
はやも我が世をのがれいでばや。
底本:「萩原朔太郎全集 第三卷」筑摩書房
1977(昭和52)年5月30日初版第1刷発行
1986(昭和62)年12月10日補訂版第1刷発行
入力:kompass
校正:小林繁雄
2011年6月25日作成
青空文庫作成ファイル:
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