黎明と樹木
萩原朔太郎



この青くしなへる指をくみ合せ、

夜あけぬ前に祈るなる、

いのちの寂しさきはまりなく、

あたりにむらがる友を求む。

そこにふるへ、

かくれつつうかがひのぞく榎あり、

いのりつつ、一心に幹をけづりしに、

樹樹きぎはつめたく去り行けり。

みなつらなめて逃れゆく、

黎明の林を出づる旅びとら、

その足竝あしなみに音はなけれど、

水ながれいでて靴のかかとをうるほせり。

かくばかり我に信なきともがらに、

なにのかかはりあるべしやは、

空しく坐して祈り、

遠き遍路に消え殘る雪を光らしむ、

いのちはひとりのもの、

ただ我が信願をかくるにより、

木ぬれにかかり、

有明の月もしらみてふるへ悲しめり。

底本:「萩原朔太郎全集 第三卷」筑摩書房

   1977(昭和52)年530日初版第1刷発行

   1986(昭和62)年1210日補訂版第1刷発行

入力:kompass

校正:小林繁雄

2011年625日作成

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