春の來る頃
萩原朔太郎



なじかは春の歩み遲く

わが故郷ふるさとは消え殘る雪の光れる

わが眼になじむ遠き山山

その山脈やまなみもれんめんと

煙の見えざる淺間は哀し

今朝より家を逃れいで

木ぬれに石をかくして遊べる

をみな來りて問ふにあらずば

なんとて家路を教ふべき


はやも晝餉になりぬれど

ひとり木立にかくれつつ

母もにくしや

父もにくしやとこそ唄ふなる。

(滯郷哀語篇ヨリ)

底本:「萩原朔太郎全集 第三卷」筑摩書房

   1977(昭和52)年530日初版第1刷発行

   1986(昭和62)年1210日補訂版第1刷発行

入力:kompass

校正:小林繁雄

2011年625日作成

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