秋日行語
〔菊もうららに〕
萩原朔太郎


菊もうららに咲きいでたれど

我身は砂丘に寄りて悲しめり

さびしや海邊のおくつきに

路傍の草を手向くること

このわびしきたはむれに

ひとり樹木にすがりつき

たましひも消えよとむせびなく。

ああふるさとの永日に

少女子どものなつかしさ

たとしへもなきなつかしさ

やさしく指を眼にあてて

ももいろの秋の夕日をすかしみる

わが身の春は土にうもれて

空しく草木の根をひたせる涙。

ああかくてもこの故郷に育ちて

父母のめぐみ戀しやと歌ふなり。

底本:「萩原朔太郎全集 第三卷」筑摩書房

   1977(昭和52)年530日初版第1刷発行

   1986(昭和62)年1210日補訂版第1刷発行

※〔〕付きの副題は、作品の冒頭をとって、ファイル作成時に加えたものです。

入力:kompass

校正:小林繁雄

2011年625日作成

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