歡魚夜曲
萩原朔太郎


光り蟲しげく跳びかへる

夜の海の青き面をや眺むらむ

あてなき瞳遠く放たれ

息らひたまふ君が側へに寄りそへるに

浪はやさしくさしきたり

またひき去る浪

遠き渚に海月のひもはうちふるへ

月しらみわたる夜なれや

言葉なくふたりさしより

涙ぐましき露臺の椅子にうち向ふ

このにほふ潮風にしばなく鴎

鱗光の青きに水流れ散りて

やまずせかれぬ戀魚の身ともなりぬれば

今こそわが手ひらかれ

手はかたくあふるるものを押へたり。

ああかの高きに星あり

……………

しづかに蛇の這ひ行くごとし。

底本:「萩原朔太郎全集 第三卷」筑摩書房

   1977(昭和52)年530日初版第1刷発行

   1986(昭和62)年1210日補訂版第1刷発行

入力:kompass

校正:小林繁雄

2011年625日作成

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