ものごころ
萩原朔太郎
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ものごころ覺えそめたるわが性のうすらあかりは
春の夜の雪のごとくにしめやかにして
ふきあげのほとりに咲けるなでしこの花にも似たり
ああこのうるほひをもておん身の髮を濡らすべきか
しからずはその手をこそ
ふくらかなる白きお指にくちをあて
やみがたき情愁の海にひたりつくさむ
おん身よ
なになればかくもわが肩によりすがり
いつもいつもくさばなの吐息もてささやき給ふや
このごろは涙しげく流れ出でて
ひるもゆふべもやむことなし
ああ友よ
かくもいたいけなる我がものごころのもよほしに
秋もまぢかのひとむら時雨
さもさつさつとおとし來れり
底本:「萩原朔太郎全集 第三卷」筑摩書房
1977(昭和52)年5月30日初版第1刷発行
1986(昭和62)年12月10日補訂版第1刷発行
入力:kompass
校正:小林繁雄
2011年6月25日作成
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