古盃
萩原朔太郎



小人若うて道にんじ

走りて隱者を得しが如く

今われ山路の歸さ來つつ

木蔭にかたよき汝をえたり。

表面おもては蛟龍雲をいて

神有じんうの祕密をそめて見るや

裏面うらには伶人ぬかをたれて

物思ものもひ煩ふなよび姿

才華悧悧たるまなざしには

工匠たくみうらみもこもりけんよ。

こは君逸品いつぴん古色ありと

抱いて歸れば有情なりや

味よきしづくの淺紫せんしなるに

け高き千古の春を知りぬ。

底本:「萩原朔太郎全集 第三卷」筑摩書房

   1977(昭和52)年530日初版第1刷発行

   1986(昭和62)年1210日補訂版第1刷発行

入力:kompass

校正:小林繁雄

2011年625日作成

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