老いたるえびのうた
室生犀星



けふはえびのように悲しい

つのやらひげやら

とげやら一杯生やしてゐるが

どれが悲しがつてゐるのか判らない。


ひげにたづねて見れば

おれではないといふ。

尖つたとげに聞いて見たら

わしでもないといふ。

それでは一体誰が悲しがつてゐるのか

誰に聞いてみても

さつぱり判らない。


生きてたたみを這うてゐるえせえび一疋。

からだじうが悲しいのだ。

底本:「蜜のあわれ・われはうたえども やぶれかぶれ」講談社文芸文庫、講談社

   1993(平成5)年510日第1刷発行

※底本のテキストは、著者自筆の原稿によります。

入力:日根敏晶

校正:Juki

2017年112日作成

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