老いたるえびのうた
室生犀星
|
けふはえびのように悲しい
角やらひげやら
とげやら一杯生やしてゐるが
どれが悲しがつてゐるのか判らない。
ひげにたづねて見れば
おれではないといふ。
尖つたとげに聞いて見たら
わしでもないといふ。
それでは一体誰が悲しがつてゐるのか
誰に聞いてみても
さつぱり判らない。
生きてたたみを這うてゐるえせえび一疋。
からだじうが悲しいのだ。
底本:「蜜のあわれ・われはうたえども やぶれかぶれ」講談社文芸文庫、講談社
1993(平成5)年5月10日第1刷発行
※底本のテキストは、著者自筆の原稿によります。
入力:日根敏晶
校正:Juki
2017年1月12日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。