〔夕陽は青めりかの山裾に〕
宮沢賢治


夕陽は青めりかの山裾に

ひろ野はくらめりま夏の雲に

かの町はるかの地平に消えて

おもかげほがらにわらひは遠し


ふたりぞたゞのみさちありなんと

おもへば世界はあまりに暗く

かのひとまことにさちありなんと

まさしくねがへばこころはあかし


いざ起てまことのをのこの恋に

もの云ひもの読み苹果を喰める

ひとびとまことのさちならざれば

まことのねがひは充ちしにあらぬ


夕陽は青みて木立はひかり

をちこちながるゝ草取うたや

いましものびたつ稲田の氈に

ひとびと汗してなほはたらけり

底本:「新修宮沢賢治全集 第六巻」筑摩書房

   1980(昭和55)年215日初版第1刷発行

※〔〕付きの表題は、底本編集時におぎなわれたものです。

入力:junk

校正:土屋隆

2011年514日作成

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