四八 黄泉路
宮沢賢治



アリイルスチュアール
一九二七


(房中寒くむなしくて

灯は消え月は出でざるに

大なる恐怖クフの声なして

いま起ちたるはそも何ぞ!……

わが知るもののたましひ

何とてなれは来りしや?)

   (君は云へりき わが待たば

    君も必ず来らんと……)

(愛しきされど愚かしき

遙けくなれの死しけるを

亡きと生けるはもろ共に

行き交ふことの許されね

いざはやなれはくらやみに

われは愛にぞ行くべかり)

   (ゆふべはまことしかるらん

    今宵はしかくあらぬなり)

(とは云へなれは何をもて

ひととわれとをさまたぐる

そのひとまことそのむかし

がありしごと愛しきに

しかも汝はいま亡きものを!)

   (しかも汝とていまは亡し)

底本:「新修宮沢賢治全集 第六巻」筑摩書房

   1980(昭和55)年215日初版第1刷発行

入力:junk

校正:土屋隆

2011年514日作成

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