〔最も親しき友らにさへこれを秘して〕
宮沢賢治


最も親しき友らにさへこれを秘して

ふたゝびひとりわがあへぎ悩めるに

不純の想を包みて病を問ふと名をかりて

あるべきならぬなが夢の

  (まことにあらぬ夢なれや

   われに属する財はなく

   わが身は病と戦ひつ

   辛く業をばなしけるを)

あらゆる詐術の成らざりしより

我を呪ひて殺さんとするか

然らば記せよ

女と思ひて今日までは許しても来つれ

今や生くるも死するも

なんぢが曲意非礼を忘れじ

もしなほなれに

一分反省の心あらば

ふたゝびわが名を人に言はず

たゞひたすらにかの大曼荼羅のおん前にして

この野の福祉を祈りつゝ

なべてこの野にたつきせん

名なきをみなのあらんごと

こゝろすなほに生きよかし

底本:「新修宮沢賢治全集 第六巻」筑摩書房

   1980(昭和55)年215日初版第1刷発行

※〔〕付きの表題は、底本編集時におぎなわれたものです。

入力:junk

校正:土屋隆

2011年514日作成

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