私が占ひに観て貰つた時
消えぬホクロ
牧野信一


 自分からすゝんで占ひを観て貰つたことはないが、十七八歳の頃祖母が突然小生の面上のほくろを気にしはぢめて、占ひ者に謀り、何れと何れとを抹殺すべきかと二三を指摘し、さて占者は小生を静座せしめて、はたとその面を睨めて物凄い声で気合ひをかけた。そして数回に亘つて、薬液体のものを、不吉と称するほくろの上に注いだが、一向に効目もなく、終ひにそのまゝ烏耶無耶のうちに中止となつたことがある。

底本:「牧野信一全集第五巻」筑摩書房

   2002(平成14)年720日初版第1

底本の親本:「文藝通信 第一巻第三号」文藝春秋社

   1933(昭和8)年121日発行

初出:「文藝通信 第一巻第三号」文藝春秋社

   1933(昭和8)年121日発行

※底本編集時に付されたと思われる、表題冒頭の「●」は省きました。

※「私が占ひに観て貰つた時」と題したアンケートへの、「消えぬホクロ」との回答です。

入力:宮元淳一

校正:門田裕志

2011年815日作成

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