自己紹介
牧野信一


 どういふことを書いていゝか見当が付かない。写真は笑顔を示さずに撮るのが普通だらう、そして男なら成るべく深刻気な苦味を添へて──。だが僕には、深刻もなく苦味もないから六ヶしい顔も出来ない。だがまさか笑つた顔も見せられない。それ程心が朗かでもない。「泣き笑ひ」といふ心持もない。そこで極くあたりまへになるわけだが、その落ちつきはまた持合せぬ、写真は例に過ぎない、この惨めな心が──だ。

底本:「牧野信一全集第二巻」筑摩書房

   2002(平成14)年324日初版第1

底本の親本:「読売新聞 第一六八四四号」読売新聞社

   1924(大正13)年211

初出:「読売新聞 第一六八四四号」読売新聞社

   1924(大正13)年211

※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

入力:宮元淳一

校正:門田裕志

2011年526日作成

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