文壇諸家一月五日の日記
牧野信一



 夕方六時半の汽車で東京へ帰る中戸川を送る。彼は一昨日の晩大阪へ行くつもりで寝台券まで用意してゐたのに、僕が引き止めてゐるうちに行くのが厭になつて折角旅支度で出かけて来たのに引き返したのだ。気の毒な気がした。今日は家の留守を預つてゐる僕につきあつて終日三人とも家でゴロ〳〵した。家は節子と僕だけだつたので、僕は可笑しい程よく働いた。だから酒もあまり回らなかつた。酒には疲れてゐたので丁度よかつたかも知れない。中戸川を送つて帰ると叔父と従兄弟が来てゐた。叔父の昔の話を聞きながら十二時過ぎまで飲む。いつ寝たか知らなかつた。

底本:「牧野信一全集第一巻」筑摩書房

   2002(平成14)年820日初版第1

底本の親本:「文學世界 第二巻第二号(二月号)」文學世界社

   1923(大正12)年21

初出:「文學世界 第二巻第二号(二月号)」文學世界社

   1923(大正12)年21

※底本編集時に付されたと思われる、表題冒頭の「●」は省きました。

※「文壇諸家一月五日の日記」と題したアンケートへの、回答です。

入力:宮元淳一

校正:門田裕志

2011年526日作成

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