檀君の近業について
太宰治


 檀君の仕事の性格は、あまり人々に通じてゐない。おぼろげながら、それと察知できても、人々は何かの理由で大事をとつて、いたづらに右顧左眄し、笑ひにまぎらはし、確言を避ける風である。これでは、檀君も、やり切れぬ思ひであらう。

 檀君の仕事の卓拔は、極めて明瞭である。過去未來の因果の絲を斷ち切り、純粹刹那の愛と美とを、ぴつたり正確に固定せしめようと前人未踏の修羅道である。

 檀君の仕事のたくましさも、誠實も、いまに人々、痛快な程に、それと思ひ當るにちがひない。その、まことの榮光の日までは、君も、死んではいけない。

 檀君の仕事は今日すでに堂々のものである。敢へて、今後を問はない。

底本:「太宰治全集11」筑摩書房

   1999(平成11)年325日初版第1刷発行

初出:「日本浪曼派 第三巻第七号」

   1937(昭和12)年91日発行

入力:小林繁雄

校正:阿部哲也

2011年1012日作成

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