傀儡の夢(五場)
岸田國士
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有田浩三
妻 倉子
書生水垣
小間使銀
下働 滝
水垣の友竹中
有田浩三の書斎。朝。
浩三 (読んでゐる新聞から目を放さずに、はひつて来た妻に向ひ)おはやう。昨夜はよく眠つたかい。何か寝言を云つてたね。
倉子 (夫の手から新聞を取り上げ)これ、もう御覧になつたんでせう。ええ、よく眠ましたわ。寝言なんか云つて、あたくし?
浩三 お前の寝言はこれで三度目だ。お前が、そんな顔をして、恐ろしい秘密をもつてゐようとは思はないが、それでも、何か、おれが知らずにゐるやうなことを口走りやしないかと、いつでも冷や冷やしてるんだ。
倉子 あら、そんなに、あたくしのことを問題にしてゐて下さるの。ありがたいわ。それで、あなた、今日はまたお帰りがお遅いんでせう。
浩三 遅いかも知れない。どうして?
倉子 いいえ、遅ければ遅くつてかまひませんわ。そのつもりでゐますから……。ぢや、どうぞ、お食堂へ……。
浩三 その前に、一寸お前に聞いて置きたいことがあるんだがね。(間)お前は、家の中のことはなんでも知つてるだらうね。
倉子 ……。
浩三 おれはこの通り忙しいからだで、家のことは何もかまつてゐられない。お前が、もう少し目をつけてゐてくれないと困る。
倉子 何かお気に召さないことがあるんですの。
浩三 お前は、水垣と銀のことで、近頃何か気がついたことはないか。
倉子 水垣と銀と……何か間違ひでもございましたの。
浩三 間違ひがあつたか、これから間違ふか、そこまではわからん。しかし、兎に角、危険な状態にあることは事実だ。
倉子 何かさういふことを御覧にでもなりましたの。
浩三 見た。たしかに見た。
倉子 何を御覧になつたんですの。
浩三 何をつて……さういふことをさ。二人は、暇さへあれば、隅つこで、こそこそ立話をしてるぢやないか。(間)おれは、さういふところを、今までに何度も見つけたよ。今朝も、おれが寝室を出ると、箒を持つた銀と、手拭をぶらさげた水垣とが、便所の蔭で切りに内証話をしてゐた。二人は、おれの姿を見ると、慌てて左右に別れたが、その目つきは、たしかに総てを語つてゐた。
倉子 不思議ですわね。あたくし、ちつとも、そんなところを見ませんわ。
浩三 見ても気がつかずにゐるんだらう。お前には男女関係などといふものの本体がよくわからんかも知れんが、若い男と女とが、人目をさけて、ひそひそ話をするといふことが、もう、ただの関係ではない証拠だ。それくらゐのことはわかるだらう。
倉子 さうとばかりは云へませんわ。あの人たちには、あの人たち共通の利害問題だつてありますわ。さういふ問題についていくらも話しがある筈ですわ。
浩三 さう取りたければ取つたつていいさ。おれは、なにも、わざわざ二人の関係をやましいものにする必要はない。ただ、間違ひが起つた後では、もう取返しがつかないことがある。それを心配するだけだ。
倉子 それにしても、さういふことまで、あたくしが責任をもたなければならないんですの。
浩三 あたり前ぢやないか。
倉子 どういふ風に責任をもつんですの。
浩三 わからないかい、それが……。
倉子 だつて、二人が愛し合つてゐるんなら、それを、あたくしが、どうすることもできませんわ。
浩三 おい、おい、よしてくれ、子供じみたことを云ふのは……。書生と女中とが愛し合つて、家の中が治まると思ふか。
倉子 ……。
浩三 若しあの二人が、愛し合つてゐるなら、さつさと余所へ行つて愛し合つて貰はうぢやないか。
倉子 さうしたければ、さうするでせう。
浩三 どうだかわかるもんか。おれは、どうも、お前のやり口が気に入らんのだ。おれに対しては飽くまで冷やかな態度を取つてゐながら、召使には可笑しいぐらゐ親切だね。親切なのはまあいいさ。だらしのない真似だけはさせないでくれ。水垣には、おれから注意して置くから、銀には、お前からよく将来を誡めておくがいい。(間)序でだから云ふが、お前は、おれの妻なんだぜ。
倉子 あなたは、あたくしの夫ですわ。
浩三 それがわかつてゐるんだね。
倉子 ええ、わかつてますわ。
浩三 それなら、妻は、自分の寝室に鍵をかけて寝るものかい。
倉子 ……。
浩三 おれは非常に風邪を引き易いつていふことを知つてるぢやないか。(間)水垣をここへ呼んでくれ。
倉子 御飯を召上つてからになすつたら……?
浩三 いいから、呼んでくれ。
倉子 (退場)
浩三 (別の新聞をひろげて読む)
戸を叩く音。
浩三 よし。
水垣 (はひりながら)何か御用ですか。
浩三 お前はいくつだ。
水垣 私ですか。
浩三 お前はいくつだと聞いてれば、お前の年を云へばいいんだ。
水垣 は、二十五です。
浩三 二十五にもなつて、部屋の壁へ落書をするのか。
水垣 壁へですか。
浩三 わかつてることを聞き直すな。あの顔は誰の顔だ。
水垣 誰の顔つていふわけではありません。
浩三 女の顔だね。
水垣 女つていふわけでもありません。
浩三 嘘つけ。
水垣 髪の毛はさうですけれど……。
浩三 銀の顔だらう。
水垣 いいえ、違ひます。絶対に違ひます。
浩三 これから、便所の蔭なんかで、銀と話をすることはならん。
水垣 は。
浩三 今度、ああいふことがあつたら、暇を出すぞ。
水垣 しかし、あれは、なんです、お銀さんが、今朝頭が痛いつて云ふもんですから、その話をしてたんです。
浩三 銀が頭の痛いのはお前の知つたことぢやない。
水垣 どんな用事があつても、お銀さんと話をしちやいけないんですか。
浩三 いかん。
水垣 しかし、それぢや……。
浩三 滝に取り次いで貰へ。
水垣 お滝さんにですか。
浩三 それから、お前はおれが使つてる人間だ。おれの為にならんことをすると承知せんぞ。
水垣 ……。
浩三 奥さんのことで、近頃、何か変つたことはないか。
水垣 奥さんのことでですか。
浩三 うるさいな、いちいち……。だから、あつたら、なんでも云つてみろ。(声を低くして)誰か奥さんのところへ、ちよいちよい来やしないか。
水垣 どういふ方がですか。
浩三 それをこつちが聞いてるんだ。
水垣 いえ別に……。
浩三 おれの留守中、奥さんはずつと家にゐるか。
水垣 をられます。一度も外へ出られたことはありません。
浩三 買ひ物なんかにも……。
水垣 はあ。
浩三 お前は、近頃、一体何を勉強してるんだ。
水垣 英語です。
浩三 少しは解るやうになつたか。
水垣 まだ大分わからんところがありますけれど……。
浩三 どうだ、一つ、外へ出て、苦学でもしてみちや……。
水垣 今だつて苦学は苦学ですが……。
浩三 だから、外へ出てと云つてるぢやないか。ここにゐても、それほど用事はないし、第一、人の世話なんかになつてゐては、奮発心が起らん。つい、余計な邪念が起つたりするんだ。
水垣 邪念と申しますと……。
浩三 兎に角、お前は、なんの役にも立たん。云ひつけたことさへろくに出来んぢやないか。この新聞はいらんから断われと云つたらう。まだ配達しとるぢやないか。どうしたんだ。
水垣 玄関の処へ貼り出して置きましたんですが……。
浩三 それだから役に立たんと云ふのだ。それから、お前、その頭は、見つともないから短く刈れと云つたのに、どうして刈らないんだ。
水垣 これですか。これは、ついまだ刈りませんでした。
浩三 おれの云ふことをきかんのか。
水垣 さういふわけぢやありません。さういふわけぢやありませんが、急に短く刈ると変だらうと思ひまして……。
浩三 さういふ料簡だから滝なんかにまで馬鹿にされるんだ。
水垣 お滝さんが何か云つてましたか。
浩三 ……。
水垣 あん畜生!
浩三 もういいから、心を入れ替へて勉強しろ。
水垣 あ、昨夕六時頃、先生に電話がかかつて来ました。
浩三 何処から……。
水垣 事務所からです。
浩三 事務所から?
水垣 はあ。
浩三 奥さんは、それを知つてるのか。
水垣 いいえ、私が出ましたから、そこは、心得てをります。
浩三 黙つてたね。
水垣 無論です。
浩三 よし。そのつもりで、しつかりやれ。
食堂──夕食の後。
倉子 (ナプキンで口のあたりを拭ひながら)あたしは、もう慣れてしまつたよ。どうせ初めから愛のない結婚なんだもの。ちつとも不思議はないからね。考へやうによつちや、それが不幸だとも云へるけれど、あたしがこの家へ来たために、親一人の命を救ふことができたんだと思へば、天に感謝してもいいわ。
銀 それや、お忙しいと云へば、それで通りませうけれど、毎日毎日、これぢや、あんまりでございますわ。
倉子 お仕事が過ぎると思へば、あたしも、おからだに障りはしないかつて、さう申し上げてもみるわ。だけど、御用つていふのは、ほかの、面白い御用らしいから、かうやつて黙つてゐるのよ。お互に、家でつまらなささうな顔をつき合せてゐるより、かうして、夜遅く帰つて来て下すつた方が、あたしも楽だからね。
銀 でもまあ、奥さまはよくそんなことがおつしやれますわね。
倉子 お前なんかは、自由で羨ましいよ。奉公をしてるのは、からだを縛られてるんぢやないからね。ここがいやだと思へばほかへ行つたつていいんだし……。したいことをして、主人の気に入らなけれや、そんな主人は主人と思はなけれやいいんだしさ……。
銀 さうは参りません。あたくし、そんな気持にはなれませんわ。かうやつて、可愛がつて頂いてゐれば、何不足はございませんけれど、この上我儘を致さうとは夢にも思ひません。
倉子 お前、水垣をどう思ふ。
銀 水垣さんでございますか。どうつて別に……。
倉子 あの人は、あの通りぶつきら棒だけれど、情の厚さうな人だね。お前のことをそれや思つてるんだよ。
銀 いやでございますよ、奥さま。
倉子 ほんとだよ。若し、さうだつたら、お前、あの人と結婚する気はないかい。
銀 おからかひになるなら、あたくし、あちらへ参ります。
倉子 あちらへは何時でも行けるから、まあその話を進めてからにしようぢやないか。あたしは、自分がこんな生活をしてゐるから、お前たちだけでも、せめて、ほんたうに愛し合つてゐてくれれば、このうちの中が、よつぽど明るくなるだらうと思ふの。お前たち二人のよろこびが、あたしの冷めきつた心に、いくらかでも暖かみをつたへてくれるだらうと、それを楽しみにしてるの。さういふうちの中の出来事を、かれこれやかましくいふ主人もあるさうだけれど、あたしは、そんなことかまはないの。却つて、うれしいわ。
銀 奥さまは、そんなこと、お一人でおきめになつていらつしやいますの。あたくし、水垣さんつて、なんだか、虫が好きませんの。
倉子 だつて……。そんなことないだらう。随分、親しさうに話をしてるぢやないの。
銀 そんなに親しさうに見えます? ……それや、遠慮はなくなつてゐますわ。常談ばつかり云ひ合つてるんでございますもの……。
倉子 常談が云へるくらゐなら、真面目な話だつて出来るわ。さういふ話は、まだしたことないの。
銀 ございません。
倉子 一度も?
銀 あの人に聞いてごらん遊ばせ。
倉子 あの人は、だから、お前が好きだつて云つてるのよ。
銀 何時そんなことを申しました。
倉子 今朝。
銀 ほんとでございますか。
倉子 ……。
銀 いやな人。
倉子 あの人だつて、云ひ悪いことを云つたんだらうから、お前も、恥かしがらずに、あたしにだけ、思つてることを云つたらいいぢやないの。悪いやうにはしないよ。あたしが万事引受けるから……。
銀 あの人が自分でそんなことを云ひに参りましたんですか。
倉子 さあ、それはどうだか。
銀 そんなことをして、あとできまりが悪いもんだから、人が口を利いても、返事をしないんでございますよ。図々しい人つたら、ありやしない。
倉子 そんなに怒らないだつていいぢやないの。お前に直接云ひ出して、すげなく断わられるよりと思つたんだらう。お前が堅い女だつていふことを知つてるだらうからね。それより、あたしに云へば、またなんとかなるだらうと思つてさ。それやたしかに利口なやり方だよ、それに、その方が、態度としても立派だ。頼もしいぢやないか。お前から好い返事が聞ければあの人だつて勉強するのにも張合ができる。四五年のうちには、一人前の働き手になるだらう。それまで、先を楽しみに、一緒にここで辛抱するさ。
銀 あたくし、なんですか、そんな気になりませんわ。
倉子 ぢや、どうしてもいやなの。
銀 もう少し考へさせていただきます。でも、結婚なんて、まだ、そんなこと考へたことございませんですから……。
倉子 だから、すぐ結婚しなくつてもいいのさ。つまり許婚だね。恋人同志つて云つてもいいわ。毎日同じ家で顔を合せてゐる恋人なんて洒落てるわ。あら、まだ行つちまつちや駄目よ。
銀 お茶が冷めましたでせう。
倉子 いいの。ぢや考へて置くね。あしたの晩返事をしておくれ。ここ片づけるのはあとにして、一寸、滝を呼んで来ておくれ。
銀 お滝さんはお風呂をたいてをります。
倉子 かまはないから、すぐ来るやうにお云ひ。
銀 あたくしのことはなんにもおつしやらないで……。
倉子 ああ、わかつてるよ。
銀 (退場)
滝 (登場)
倉子 近頃、お前たちの部屋へ水垣が遊びに行きはしないかい。
滝 はい、時々、来なさいます。
倉子 お前のところへ来るのか、銀のところへ来るのか、どつちだい。
滝 さあ、どつちだか、わかりませんです。
倉子 お前一人の時でも来るかい。
滝 はい。
倉子 どんな話をするの。
滝 よく覚えてをりませんです。
倉子 お前、あの人が好きだらう。
滝 水垣さんですか。好きつていふこともないですけれど……。
倉子 好きなら好きでいいんだよ。お前に、あの人、何か云つたらう。
滝 どういふことでございますか。
倉子 あの人がね、銀をお嫁さんに欲しいつて云つたら、お前どうする。
滝 ……。
倉子 どうするぢや困るね。お前平気でゐられるかい。
滝 わたくしはなにも、水垣さんのなさることを、かれこれ云ふわけはございませんです。
倉子 それやさうだけれど、お前をなぜ欲しいつて云はないか……そんなこと思やしないね。
滝 そんな馬鹿な、奥さま……。水垣さんはお銀さんをお貰ひになるんですかね。
倉子 まだ決まつてやしないのさ。ただ、あたしが、さうしたらと思つてるだけなの。お前には、また、いいお婿さんを世話するよ。
滝 あら、そんなこと……。
倉子 それぢや、もういいから、早くお風呂をわかしておくれ。今のことは誰にも黙つてるんだよ。
滝 はい、お風呂はもうよろしうございます。(退場)
倉子 (茶を飲み乾し)銀や、銀や……。
銀 (現はる)お呼びでございますか。
倉子 もう十分ほどしたらお湯にはひるからね。オー・ド・コロオニユを持つてつといておくれ。それから、応接間の窓を一度開けてね、あとでピアノを弾くから……。さつき、一寸はひつてみたら、埃臭くつて……。掃除をする時は、面倒でも窓を開けなくつちや……。蝋燭を忘れないでね。
銀 お蝋燭は二本でよろしうございますか。
倉子 ああ。
銀 お滝さんが、今、あたくしに変なことを申しますんですよ。
倉子 なんて?
銀 奥さまは御親切な方だねえつて……。
倉子 ほんとだからいいぢやないの。
応接間──ピアノの蝋燭立に蝋燭が二本点いてゐるだけで、部屋の中は半ば闇である。
倉子 (ピアノに向ひ、弾くともなしに鍵盤を弄んでゐる。それは、自分の言葉に伴奏をしてゐるやうでもある)あんたも、男のくせに意気地なしね。
水垣 (少し離れたところに立つたままのシルウエツトが見える)
倉子 若い時は二度なくつてよ。勉強も結構だけれど、花やかな夢は活字の中にあるんぢやないでせう。
水垣 ……。
倉子 それや、将来のことも考へなけりやならないわ。しかし、ただコツコツ本を読んでゐて、それで人間が何かになると思つたら間違ひよ。
水垣 ……。
倉子 真面目だつて云はれるのは、得なこともあるけれど、そのために、自分がだんだんひからびて行くのに気がつかなければ、結局、真面目なのは不幸なんだわ。感情の燃え上らない人間は、絃の切れた楽器のやうなものよ。ピアノは、かうして弾くために作られたんだし、人間は、少しでも多く愛するために生れて来たんだわ。(間)さう思はない。
水垣 ……。
倉子 あたしはもうおしまひ……。かういふ結婚を選んだのも、完全に独りつきりになるためよ。この世の中には、愛するといふことを許されてない人間がゐるのね。あたしもその一人よ。さういふ人間は、人から愛されることが苦痛なの。さういふ自分を、ほんたうに労つてくれるのは、自分だけだと思ふわ。だから、それでいいの。
水垣 ……。
倉子 男でも、女でも、一生の運命を定める時機は、たつた一度ね。人はよく、それを知らずにゐて、折角の幸福を逃したり、遭はなくつても済む不幸に遭つたりするんだわ。自分の求めてゐる相手だつて、案外手近にゐることがあるのね。どつちも気がつかずにゐたり、一方がそれと感じてゐても、それがそのままになつてしまつたりするの。──あたし、さういふことが、それやよくわかるやうになつて来たのよ。
水垣 (頭をかかへて椅子の上に倚りかかる)
倉子 (黙つてピアノを弾きつづける)
水垣 (突然、起ち上る)
倉子 (その気色を感じて、静かに後ろをふり向く)どうしたの。もう行くの。
水垣 (恐る恐る倉子の方に近寄る)
倉子 (それには気がつかぬらしく)だけど、さういふ時、女はつまらないわ。だつて、女の方が自分の運命については敏感なのよ。──この人と思ふ人が自分の目の前に現れても、それと相手に知らせることが出来ないんですもの。それや、さういふ機会が全くないわけぢやないわ。でも恐ろしいの──水の底に平和な国があると思つても、その水の中に飛び込むのが恐ろしいやうなものだわ。
水垣 (立ち止る。手がふるへてゐる)
倉子 どうして、あんたは、さう意気地がないの。
水垣 (何ものかに怯えたやうに、後ずさりをし始める)
倉子 それぢや、あたしが、あんたのすることを教へてあげるわ。いいこと……?
水垣 (立ち止つて、先方を見つめてゐる)
倉子 その前に、はつきり返事をして頂戴。あんたは、あたしにかくしてることはない……?
水垣 ……。
倉子 あんたは、まさか、ほかに好きな人があるんぢやないでせうね。
水垣 ……。
倉子 そんな筈はないわね。それぢや、あんまり可哀さうよ。はつきり名前を云つちやわるいから、「その女」つて云つとくわ。──その女は、この頃、考へ込んでばかりゐるわ。心の中では、きつと、かう云つてるのよ。──自分がいくら想つてても相手は気にも留めないでゐる。どうかした時に、この耳もとで、あの人の優しい声が聞えるやうなことはないかしら……。たとひ、それは夢でも、その夢はいつまでも覚まさずに見つづけてゐようものを……。──それから、かうも云つてるわ。──あの人は、若しかしたら、自分のことを想つててくれてるのではないかしら……。ただ、これを云ひ出さずにゐるのは、あたしの気持がわからないからだらう……つて。今度あの人が、あたしの顔を見たら、精一杯情をこめて、あの人を見返してやらう……。あの人の目が、一寸でもあたしの目を読まうとしてゐたら、あたしは、心の中のありつたけの想ひを、この目の色に現はしてゐよう……つてね。さあ、あんたは、どうすればいいの?
水垣 (われに還つて、あたりを見まはす。何か口の中で云つてゐるが聞えない)
倉子 あたしの昔識つてたある男は、どんな女に向つてでも、「僕はあなたを愛します」つて云ふのは、「僕はかういふ者です」つて名刺を差出すやうなものだ。それからまた、その女に、「僕を愛してくれますか」つて聞くのは、「あなたのお住ひは……」つて訊ねるやうなものだ。──さう云つてるの。男がさういふ風だと、女も楽だわ。あんたも、さういふ風に、一度、やつてみたらどう。
水垣 ……。
倉子 硬くなつちや駄目よ。むつかしいことを云はうと思つちや駄目……。十七世紀の仏蘭西では、美文もどきの口説が流行つたつていふけれど、現代は万事お手軽専一よ。秘密通信、ね、暗号電報、これに限るわ。
水垣 (再び倉子の方に近づきながら)奥さん……。(間)奥さん……。
倉子 (黙つて、ピアノを弾きつづける。今度は、相手の言葉に伴奏をしてゐるやうである)
水垣 (倉子の耳もとに口を寄せ)奥さん……。
倉子 (ギヨツとして、首を縮める)いや、そんなにそばへ来ちや……。
水垣 (驚いて、一歩後へさがり)奥さん、お願ひです。僕はどうしていいかわからないんです。
倉子 ……。
水垣 僕は、今までそんな事は夢にも考へてゐなかつたんです。かういふことにならうとは思ひませんでした。僕は、何一つ役に立たない人間です。そして誰からも、優しい言葉をかけられたことのない人間です。それは、奥さんが一番よく御存じの筈です。僕はみじめな男です。お滝さんにさへ馬鹿にされる男です。
倉子 ……。
水垣 僕は幾度も、自分の事を疑ひました。しかし、今夜といふ今夜、僕は二十五年間、微々たる存在を続けて来たことが無駄でないのを知りました。奥さん、僕の心臓はこの通り鳴つてゐます。僕の感情は、この通り燃え上つてゐます。
倉子 (静かに後ろをふり向き、やがて、またすぐに元の姿勢に返る)
水垣 奥さん。僕は物事を正直に解釈する人間です。来いと云はれたところへ、目をつぶつて行く人間です。さ、行きますよ。僕の顔を見ないで下さい。
倉子 (平気を装つて、ピアノを弾きつづける)
水垣 (一歩二歩、倉子の方に近づくが、どうしてもそれ以上進めない。両手を前に差し出し)助けて下さい。奥さん、後生ですから僕に元気をつけて下さい。
倉子 ……。
水垣 嘘でせう、今のはみんな嘘でせう。僕は、一度、神田の下宿にころがつてゐる時分、女名前の手紙を貰ひました。それは、しかし、友達の悪戯でしたが、その時の胸騒ぎ、ああ、あの興奮は、僕の青春を歌ふただ一つの思ひ出です。その思ひ出が、今甦つて来たのです。いいえ、そんなものとは較べものにならない。僕は、目の前に、美しい瞬間を見てゐるのです。素晴らしい戦慄を感じてゐるのです。今です、奥さん、僕が命を捧げても悔いないのは……。(一歩前に出る)今です、今です、ああ、今です……。(一歩前に出かけて、そのままそこに蹲る)
倉子 (この間やや激しくピアノを鳴らす)
水垣 駄目だ。どうしても駄目だ。
倉子 (急に静かな曲を弾き始める)
水垣 やつぱり僕は、ぢつとしてゐませう。ぢつと、壁を見つめてゐませう。壁の上へ、せめて鉛筆で落書をしませう。僕の求めてゐる相手は、きつと、壁の中にゐるんでせう、その顔が、僕に笑ひかけてくれた時、僕は、それに返事をしませう。その返事だけは、もうとつくに用意してゐます。
倉子 (後ろをふり向き、水垣に、笑ひかける)
水垣 (われを忘れて、飛びつくやうに)奥さん……(その手が倉子の肩先に触れようとする)
倉子 (それを、軽く外し、起ち上つて、ピアノを離れ、水垣の方を優しくにらみながら、やや高く)今呼んであげるわ。銀や……。(間)銀はゐないかい。
銀 (現はる)
倉子 (遠ざかりながら)ピアノの蓋をしめてお置き。それから、蝋燭を消して……。(去る)
銀 (水垣のただならぬ様子を眺めながら、気味わるげに、ピアノの蓋をしめ、蝋燭を持つて行かうとする)
水垣 (それを制して)もう暫く、そのままにしておいてくれ給へ。それから、君、その椅子にかけて……。
銀 (不思議さうに水垣の顔を見つめる)
水垣 いいから、そこへ腰かけてゐ給へ。一寸でいい。頼む。
銀 (しかたがなしに、倉子の腰かけてゐた椅子にかける)
水垣 さう、さう、さうだ。(間)お銀さん、今、忙しいかい。
銀 奥さまがおやすみになるのに、あたしがゐなくつちや……。
水垣 さうか、そいぢや、しかたがない。
銀 何か用なの。
水垣 いいや、なんでもないのさ。ここでしばらく話でもしようと思つてさ……。
銀 さうしちや、をられないわ。また、暇な時ね。いいこと、消すわよ。(蝋燭を取り上げて、火を消す。闇の中で)あぶない。駄目よ、いたづらしちや……。あら、なにツするの……(平手で激しく頬を打つ音)
書生部屋──西日が照り込んでゐる。
水垣 (頭のふけを落しながら)なるべく早い方がいいんだ。
竹中 (腹這ひになり)そんなことぐらゐで、一々面目騒ぎをしてちや、日本中に住む処はなくなるぞ。
水垣 おれも男だ。女中風情に頭が上らなくつちや、生きてる甲斐がない。
竹中 なんだつて、また、常談にしちまはないんだ。
水垣 だつて、暗がりだぜ。
竹中 暗がりだつていいぢやないか。──奥さんに知れたのか。
水垣 もう、奥さんの話は止してくれ。目の中が痒くなる。
竹中 へんな病気でやがら……。
水垣 煙草もつてないか。
竹中 こつちが聞かうと思つてたんだ。その辺に煙草屋ないのか。
水垣 そこ出るとすぐある。買つて来いよ。
竹中 買つて来るから、金を出せ。
水垣 生意気云ふない……。おい、ほんとに、さつきの話、どうかしてくれよ。
竹中 まあ、待て。あわてるな。そこで、そのお銀さんとやらは、幾歳だい。
水垣 二十三だ。
竹中 教育はあるのか。
水垣 どうして。
竹中 いや、おれに考へがある。
水垣 つまらんことを考へてるひまに、おれの身の振り方をつけてくれよ。おれは、今朝から、この部屋を出ることが出来ないんだ。顔も洗はずゐる始末だ。
竹中 それでも洗ふことがあるのかい。
水垣 毎日洗ふさ。時々は、奥さんが湯殿へ忘れて行つた仏蘭西製の石鹸で鼻の孔まで洗つてやるんだ。豪勢なもんだらう。
竹中 つまらねえことを威張りやがる。奥さんの部屋つてな、どこだい。
水垣 迂散臭い目付をする奴だなあ。二階だよ。
竹中 この上か。
水垣 何処だつていいぢやないか。あとで拝ましてやる。気絶するな。
竹中 貴様も奴隷根性が発達しやがつたなあ。しつかりしろ、しつかり……。母校の名誉に関するぞ。
水垣 母校の名誉だ? ニキビ書生らしいことを吐かしやがる。手めえはなんだい。万年予備校がそんなにえらいか。
竹中 煙草を出せ、煙草を……。代議士の書生をしてゐて、煙草ぐらゐ自由にならないのか。おれを応接間へ案内しろ。
水垣 大きな声を出すない。夕刊売はやかましくつていけねえ。
竹中 やい、書生、気をつけろ。
水垣 うるさい、うるさい。(立つて出て行く)
竹中 (机の抽斗を開けたり、ノートの頁をめくつたりなどしてゐる)
滝 (現はる。意外な人物がゐるのに驚いて)あら、御免なさい。水垣さんは何処へ行きました。
竹中 さあ、今そつちへ出てつたんですが……多分煙草を探しに行つたんでせう。何か用ですか。
滝 ええ、あの、一寸、奥さまが……。
竹中 代りに僕ぢやいけませんか。
滝 (笑ひながら)あなたは、水垣さんのお友達ですか。
竹中 友達つていふほどでもないが、まあ、さう云つたところです。あなたですか、お銀さんつていふのは……。
滝 知りませんよ。そんなこと……(逃げるやうに出で去りながら)帰つて来たら、奥さまのお部屋へ来るやうにさう云つて下さいね。
竹中 なあんでえ。あの女か。(さう云つて起ち上り、その辺をうろうろ見まはしながら、押入の中から行李を引き出し、素早く二三枚の着類を丸め、行李をもとのところにしまひ、急いで部屋を出る)
舞台しばらく空虚。
水垣 (巻煙草を五六本掴んで現はれ、竹中がゐないので、一寸変な顔をするが、どつかと机の前にすわり、何か置手紙のやうなものでもないかといふ風に、あたりを捜し始める。首ひねる。跫音がするので、その方を振り返る)
滝 (現はる)もうお友達の方、帰んなすつたの。
水垣 知らないうちに帰つたらしい。なんにも云つてかなかつたね。
滝 気味の悪い人……。あたしの顔を見てにやにや笑つてるのよ。
水垣 あんた、僕のゐないうち、此処へ来たの。
滝 さうさう。それを云ひに来たんだわ。奥さまがお呼びですよ。
水垣 僕を……。
滝 早く行きなさいよ。
水垣 僕を……。変だなあ。
滝 ちつとも変なものですか。さつきから待つてらつしやるのよ。
水垣 (腰を浮かせ)小言かしら……。
滝 さあ、何か小言を食ふやうなわけでもあるの。
水垣 別にないがね、そんなことは……。
滝 そいぢや、心配しなくつたつていいでせう。
水垣 (改まつて)お滝さん……。君だけは、僕を信用してくれるだらう。誰かが、僕のことを云つてやしなかつたかい。
滝 (笑ひながら)そんなこと、聞きませんよ。
水垣 うそだらう。
滝 いいから早く行つてごらんなさいよ。愚図愚図してると、あたしの方が叱られるからさ。
水垣 (自ら決心を促すやうに)なに、僕の腹はもう決まつてるんだ。
滝 おめでたう。
水垣 変なことは云はないでくれ給へ。何がおめでたいんだい。また感違ひをしてやがら……。(出で去る)
滝 おごつて頂戴よ。(これも、その後から姿を消す)
舞台しばらく空虚。
銀 (跫音を忍んで入り来る。机の前にすわり紙ぎれを捜し、何か書きつける。そして、また、跫音を忍んで出で去る)
倉子の居間──
倉子 そんなに畏まらなくつたつていいのよ。今来てたお友だちつていふのはどういふ人……?
水垣 中学の同窓です。
倉子 (興味がなささうに)さう。もう帰つたの。家の中へ、あんまり、いろんな人を上げないで頂戴ね。外で会ふのはかまはないけれど……。旦那さまが、何時でもさうおつしやつてるでせう。信用のおける人ならいいやうなもんだけれど……。この前一度、女中の親類だつていふ女が訪ねて来て、一寸油断をしてる間に、あたしの部屋へはひり込んでるんだからね。
水垣 いいえ、あの男に限つて、そんなことは……。
倉子 それでも、まあ、あんまりさういふ人はね、万一の場合、疑ひをかけられるだけでもつまらないわ。それは、それでいいの、すんだことだから……。これから気をつけてね。
水垣 はあ。
倉子 時に、どうなの、銀との話はうまくついた?
水垣 (もぢもぢして)それについて、何かお聞きになりましたでせうか。
倉子 いいえ、銀からは一口も、そんな話はないけれど、あたしがさうと察してゐるだけよ。こんなことが旦那様のお耳にはひるとまたうるさいから、万事そのつもりでね。時機を見て、またあたしからお話しとくわ。
水垣 (当惑して)さうしますと、お銀さんは、やはり、そのつもりでゐるんでせうか。
倉子 (笑ひながら)そんなことをあたしに聞いてどうするの。二人の間に、ちやんと、話がきまつてるんでせう。
水垣 いいえ、そんな話は、まだしたことはないんですが……。
倉子 おや、さうなの。昨夜は、そいぢや、どうしたの。
水垣 昨夜は、その、お銀さんが、蝋燭を消したもんですから、その、暗がりで、どうしたはずみか、お銀さんの顔と、わたしの顔とが、かう、妙な工合に、ぶつかりまして……。
倉子 へえ、それで、どうなつたの。
水垣 それで、つまり、お銀さんが怒つて、わたくしの頬を、殴りつけましたもんですから、わたくしはなんにも申しませんでした。
倉子 頬つぺたをなぐられ損はつまらないわね。どら、待つといで……。いいえ、あんたは、そこを動いちやいけません。(奥に向ひ)銀や……。
銀 (きまり悪さうに現はる)
水垣 (これも頭に手をやりながら、首を垂れる)
倉子 まあ、こつちへおはひり……。昨夜は、お前、大へんな剣幕だつたつてね。
銀 ……。(両手で顔をかくす)
倉子 そんなに恥かしがらなくつたつていいよ。あたしは、何もかも呑み込んでゐるんだから……。それでなにかい、お前も、男の顔に手をあてたんだから、なんとか挨拶のし方は考へてるだらうね。
銀 (極めて低く)すみません。
倉子 おや、それは、あたしに云つてるんぢやあるまいね。
銀 水垣さん、御免なさい。
水垣 (恐縮して)いや、どう致しまして……。
倉子 面倒臭い人達だね。さつさと仲直りの握手でもなんでもしたらいいぢやないか。
水垣 (夫人の語調に驚いて、おづおづ、右手を銀の方に差出す)
銀 (これも、不馴れな手つきで、それとなく男の手を取る)
倉子 (会心の笑を浮べながら)ぢや、まあ、ここのところは、それで勘弁しといてあげよう。
銀 ┐
├(同時に、倉子に向ひ頭を下げる)
水垣 ┘
倉子 それから、今後のことだけれど、旦那さまに見つかつたら、それまでだからね。滝やだつて油断がならないよ。あれでなかなか、田舎者のやうだけれど、旦那様の御機嫌取りはうまいからね。あたしのゐない処ぢや、なるべく口も利かないやうにしてた方がいいね。
銀 ┐
├(顔を見合はせ、やや失望の色を現はす)
水垣 ┘
倉子 あ、それから、銀や、お前、一寸、そこの花屋へ行つて鈴蘭を五円ばかり持つて来るやうに、さう云つて来ておくれ。
水垣 わたくしが行つて参りませうか。
銀 いいえ、あたくしが参ります。
倉子 ぢや、どつちでも、都合のいい方が行くと……。
銀 ┐
├(同時に起ち上り一礼して出で去る)
水垣 ┘
倉子 感心、感心、うまく行つた。(かう云ひながらおびを解きはじめる。きものを着替へるらしい)
長い間。
この時、突然、扉を叩く音。
倉子 だれ?
声 おれだよ。
倉子 (あわてて)いけません。今おはひりになつちや……。
が、もう遅い。浩三が扉のハンドルを握つたまま、突つ立つてゐる。
倉子 (急いで前を掻き合せ)今、着物を着替へてるんですの。しばらく、あつちへ行つてらしつて下さいません?
浩三 いいぢやないか、おれが見てたつて……。着替へろよ。
倉子 あなた、酔つてらつしやるのね。
浩三 酔つてたらどうだ。それより、俺は今、けしからん光景を見たよ。
倉子 ……?
浩三 銀と水垣とは、いよいよ本物だね。おれが門をはひると、内玄関の隅で、抱き合つてゐたぜ。あれやなんだ、一体。ああいふことをするやうに云ひつけたのか。それとも、あいつらが、勝手に考へついたか、そこがどうもわからん、このおれには……。銀と水垣とを、ここへ呼んでごらん。
倉子 ……。
浩三 呼んでごらん。お前が取調べをするところを、おれは見せて貰はう。どら、おれが一つ、呼んで来てやる。(出て行く)
倉子 (帯をしめ終り、ぐつたりと椅子にもたれかかる。唇をかむ)
浩三の声 水垣……。水垣……。一寸、此処へ来い。それから、銀はをらんか、銀は……。よし、そこにゐるな。二人とも、こつちへ来い。
三人は、同時に、倉子の前に現はれる。
長い沈黙。
浩三 倉子、お前調べろ。
倉子 ……。
浩三 調べる必要はないと云ふんだらう。さうだ、その必要はない。二人とも、今日限り暇を出す。すぐ出て行け。
銀 (泣き出す)
倉子 銀は、あたくしの召使ですから、あたくしにお任せ下さい。
浩三 よし、それなら、それでもいい。水垣、お前はおれの書生だ。出て行け。(声を荒らげ)出て行けと云つたら出て行け。
長い沈黙。
浩三 不埓な奴だ。此処を誰の家だと思つとる。出て行かなけれや、かうして出してやる。(水垣の領首を捉へ、室外に押し出さうとする)
水垣 (抵抗もせず、それかと云つて、素直に出されもせず、頗る不明瞭な態度のまま一歩一歩遠ざからうとする)
銀 (今まで、その様子を見てゐたが、つひに、たまらず、男に追ひ縋り)水垣さん……。
水垣 (哀れな顔をして、ちらと銀の方を見返る。が、浩三の力に押されて、有耶無邪のうちに姿を消す)
廊下に、ひとしきり、ざわめきが続く。
倉子 (茫然自失したる体にて)
底本:「岸田國士全集3」岩波書店
1990(平成2)年5月8日発行
底本の親本:「落葉日記」第一書房
1928(昭和3)年5月25日発行
初出:「女性 第十二巻第二号」
1927(昭和2)年8月1日発行
※複数行にかかる中括弧には、けい線素片をあてました。
入力:kompass
校正:門田裕志
2012年1月4日作成
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